残業代の計算方法|基本給と基礎賃金、時給の違い

2022年12月13日
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残業代の計算方法|基本給と基礎賃金、時給の違い

厚生労働省(和歌山労働局)では、労働問題に関する相談を受けるために、労働局および和歌山県内の5か所(労働基準監督署内)に総合労働相談コーナーを設けています。和歌山労働局が公表する「個別労働紛争解決制度の運用状況(令和2年度)」によると、総合労働相談コーナーに寄せられた令和2年度の総合労働相談件数は、9221件でした。

毎月の給与明細を見て、「きちんと残業代が支払われているのだろうか」「支給されている残業代が少ない気がする」などのように、残業代に関する疑問を抱いている方は少なくありません。

実は、残業代は基本給から単純計算するのではなく、基礎賃金の計算や正確な割増率の適用など、さまざまな手順を踏んで算出されるものです。このように、残業代の算出は非常に複雑な計算が必要であるため、きちんと計算をしてみたら未払いの残業代が発生していた、というようなことが発覚するケースもあります。

今回は、残業代の基本的な計算方法や、適切に残業代が支払われていないときの対処法などについて、ベリーベスト法律事務所 和歌山オフィスの弁護士が解説します。

1、基本給と基礎賃金の違い

残業代を計算する前提として、まずは基本給と基礎賃金の違いについて理解しておくことが大切です。以下では、基本給と基礎賃金の違いについて説明します。

  1. (1)基本給とは

    基本給とは、給与額を構成する基本的な部分であり、一般的に残業手当や通勤手当、住宅手当などの各種手当を除いた部分をいいます。

    基本給は、労働者の年齢や勤続年数、能力などによって決定されるものであり、毎月金額が変動するものではないことが特徴です。

    そして、基本給に残業手当や通勤手当、住宅手当などを含めたものが「給与」であり、給与から健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料、所得税、住民税などを控除したものが「手取り額」と呼ばれるものになります。

  2. (2)基礎賃金とは

    基礎賃金とは、基本給に各種手当を加えるなどして算出した、1時間あたりの賃金額のことです。基礎賃金は、残業代などを計算する際に利用されます。

    基礎賃金には、会社から支給される手当のすべてが含まれるわけではありません。基礎賃金から除外される手当は、以下のとおりです。

    • 家族手当
    • 通勤手当
    • 別居手当
    • 子女教育手当
    • 住宅手当
    • 臨時に支払われた賃金
    • 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金


    上記の手当は、労働の対価として支給されるというよりもむしろ、労働者の個人的事情によって支給されるという性格が強いものであるため、基本的に割増賃金の計算時には基礎賃金から除外します。

    このような趣旨から、除外の対象となる手当については、単に名称だけではなく、その実態に即して判断することが大切です。たとえば、扶養家族の人数に関係なく家族手当として定額を支給されている場合には、基礎賃金に含めて考える必要があります。

    なお、固定残業代が支払われている場合には、原則として基礎賃金の計算からは除外することになりますが、基本給と固定残業代が明確に区別されていないような場合には、固定残業代も基本給に含めて計算します。

2、残業代の計算方法・注意点

ここからは、基本的な残業代の計算方法と残業代を計算する際の注意点を紹介します。

  1. (1)残業代の計算方法

    残業代の計算は、「1時間あたりの基礎賃金×残業時間×割増率」という計算式を用いて算出します。

    ① 1時間あたりの基礎賃金
    パートやアルバイトの方のように1時間あたりの賃金が定まっている時給制の場合には、時給額に1時間あたりの各種手当額を加えたものが1時間あたりの基礎賃金になりますので、計算はシンプルでわかりやすいです。

    しかし、正社員の雇用形態として多く用いられる月給制の場合、基本給に手当を加えただけでは、1時間あたりの基礎賃金が算出できません。そのため、以下のような計算が必要になります。

    • 1時間あたりの賃金=月給÷1年間における1か月平均所定労働時間
    • 1か月平均所定労働時間=(365日-1年の休日合計日数)×1日の所定労働時間÷12か月


    このような計算をするためには、職場での年間休日の日数を把握することが必要です。年間休日は、事業所ごとに作成されている就業規則を確認するなどで調べることができます。

    ② 割増率
    時間外労働や深夜労働、休日労働に対しては、通常支払われる賃金の他に、所定の割増率によって割増された割増賃金が支払われます。

    具体的な割増率は、法律上、以下のとおりです。

    法定労働時間(1日8時間、1週40時間)を超えた時間 25%以上
    時間外労働が1か月のうちに60時間を超えた時間※ 50%以上
    法定休日に労働した時間 35%以上
    深夜労働(午後10時から午前5時までの間での労働)をした時間 25%以上

    ※中小企業については令和5年4月1日から適用

    たとえば、法定労働時間を超えており、さらに深夜労働をした場合、その時間の割増率は25%+25%で合計50%の割増率となります。

  2. (2)残業代計算にあたっての注意点

    残業代を計算する場合には、以下の点に注意が必要です。

    ① 小数点以下の取り扱い
    1時間あたりの基礎賃金を計算していると、小数点以下の数字が生じることがあります。
    この場合の端数処理は明確にルールが決まっており、一律切り捨てるような扱いは違法です。

    適切な取り扱いとしては、50銭未満の端数は切り捨て、50銭以上1円未満の端数は1円に切り上げる、という対応を取らなければなりません。

    ② 残業時間の端数の取り扱い
    労働時間の管理については、日ごとに1分単位で行われるのが原則です。
    会社によっては、15分単位、30分単位で労働時間を管理し、それに満たない場合には切り捨てるなどの扱いをしているところもありますが、そのような取り扱いは違法となる可能性があります。

    ただし、1か月における時間外労働、休日労働、深夜労働の時間数の合計に1時間未満の端数が生じた際は、30分未満の端数を切り捨て、30分以上1時間未満の端数については1時間に切り上げるという取り扱いについては、常に労働者に不利になるものではないため、違法ではありません

    たとえば、月の残業時間が15時間29分であった場合には、30分未満の端数を切り捨てて15時間とすることができますが、15時間30分であった場合には、16時間とすることになります。

    このような取り扱いは、あくまでも1か月単位の端数処理ですので、1日単位でこのような処理をすることは認められていない点に注意してください。

3、残業代の計算|モデルケース

基本的な残業代の計算方法は上記のとおりですが、実際にどのくらいの残業代が発生するのか気になる方も多いでしょう。モデルケースを挙げて、残業代の計算方法を紹介します。

  1. (1)基本情報

    Aさんは、所定労働時間が午前9時から午後6時まで(休憩1時間)の会社で、月給28万円(手当含む)で働いています。Aさんの月給には、通勤手当1万円、住宅手当2万円が含まれており、1年間の休日が119日であったとします。

    ある週に、Aさんが以下のような労働をしたケースでは、Aさんの残業代はいくらになるのでしょうか。

    • 月曜日:午前9時から午後7時
    • 火曜日:午前9時から午後7時
    • 水曜日:午前9時から午後7時
    • 木曜日:午前9時から午後7時
    • 金曜日:午前9時から午後7時
    • 土曜日:休み
    • 日曜日:休み


  2. (2)計算方法

    Aさんの残業代を計算するために、まずは1時間あたりの基礎賃金を算出します。

    ① 1時間あたりの基礎賃金の計算
    Aさんは、通勤手当と住宅手当をもらっていますが、いずれも基礎賃金からは除外される手当ですので、基礎賃金の金額は、以下のとおりです。

    28万円-(通勤手当1万円+住宅手当2万円)=25万円


    また、Aさんの会社における1年間における1か月平均所定労働時間は、次のように算出します。

    (365日-119日)×8時間÷12か月=164時間


    したがって、1時間あたりの基礎賃金は、以下の金額となります。

    25万円÷164時間=1524円


    なお、この計算では端数が生じますが、50銭未満になるため、切り捨てます。

    ② 残業時間の計算
    次に、Aさんの残業時間を計算します。
    Aさんは、月曜日から金曜日まで毎日1時間の残業をしていますので、合計の残業時間は5時間です。深夜労働、休日労働はいずれもしていないことから、割増率は法定労働時間を超えた場合の25%が適用となります。

    ③ 残業代の計算
    以上の計算をもとにAさんの残業代を計算すると、以下のようになります。

    1524円×5時間×125%=9525円


    したがって、ある週のAさんの残業代は9525円です。

4、残業代が正しく支払われていない場合

残業代が正しく支払われていない可能性がある場合、会社に対して支払いを請求するために必要なことを紹介します。

  1. (1)残業代に関する証拠の収集

    未払いの残業代を会社に対して請求するためには、労働者自身で残業代に関する証拠を集めて、未払いの残業代があることを証明していかなければなりません。

    残業代に関する証拠としては、以下のものが挙げられます。

    • 労働契約書
    • 労働条件通知書
    • 就業規則
    • 賃金規程
    • 給与明細
    • 源泉徴収票
    • 賃金台帳の写し
    • タイムカード
    • 業務日報
    • パソコンのログイン・ログアウト記録
    • パソコンのメールの送信記録
    • 入退室記録
    • 交通系ICカードの記録、帰宅時のタクシーの領収書
    • 日記、メモ


    これらの証拠を集めながら、残業の事実があることを示せるようにしていきましょう。

  2. (2)残業代の計算

    残業代に関する証拠が入手できたら、次は具体的にどのくらいの残業代が発生しているかを計算する必要があります。

    前述のとおり、残業代の計算にあたっては、時間外労働、休日労働、深夜労働などの組み合わせによって適用される割増率が異なってきますので、1日ごと正確に計算することが大切です。

  3. (3)会社に対する未払いの残業代の請求

    残業代の計算ができたら、会社に対して未払いの残業代を請求(交渉)していきます。
    残業代請求には時効がありますので、未払いの残業代が発生していることがわかった場合には、早めに請求することが大切です。

  4. (4)個人での対応は困難。弁護士に相談を

    これまで説明したとおり、残業代請求をするためには、証拠の収集、残業代の計算、会社との交渉などが必要になりますので、不慣れな個人の方では適切に行うのは困難です。また、労働者個人が会社に対して請求したとしても、まともに取り合ってくれる場合は多くありません。

    そのため、会社に未払いの残業代を請求する際は、弁護士に相談することをおすすめします。弁護士であれば、残業代請求で必要となる証拠の収集と計算を迅速かつ適切に行いますので、時効が迫っている場合でも安心して任せることが可能です。

    弁護士が窓口となって会社と交渉することにより、会社側としても残業代計算の誤りを認識しやすく、解決する可能性も高まるといえるでしょう。

5、まとめ

残業代を計算するためには、基本給ではなく基礎賃金というものを使用します。基礎賃金の計算では、除外対象となる手当に該当するかどうかなど、専門的な判断が必要です。
正確に残業代を計算するためにも、まずは弁護士に相談するようにしましょう。

会社に対して未払いの残業代請求をお考えの方は、ベリーベスト法律事務所 和歌山オフィスまでお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています