忘年会で従業員が倒れた! どこまでが保護責任者? 会社は責任を問われる?
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年末年始になると忘年会や新年会でお酒を飲む機会が増えてきます。上司や同僚からお酒をすすめられると、ついつい飲みすぎてしまうこともあるでしょう。
職場の飲み会で、お酒を飲みすぎてしまうと、急性アルコール中毒により救急搬送されたり、最悪のケースでは命を落としてしまったりすることもあります。また、周りの上司や同僚が一緒に酔っ払ってしまい適切な措置をとらなかった場合、保護責任者として罪に問われる可能性があります。
今回は、忘年会や新年会で従業員が倒れた場合の保護責任者の範囲や会社の責任などについて、ベリーベスト法律事務所 和歌山オフィスの弁護士が解説します。
1、どこまでが保護責任者?
忘年会で酔いつぶれた人を放置して死亡してしまった場合には、忘年会に参加した人はどのような責任を問われるのでしょうか。
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(1)保護責任者遺棄罪、遺棄致死罪とは?
保護責任者遺棄罪とは、幼年者、老年者、身体障害者、病者などの要保護者を保護する責任のある人(保護責任者)がこれ保護責任者遺棄罪らの人を遺棄または生存に必要な保護をしなかったときに成立する犯罪です(刑法218条)。また、保護責任者遺棄致死罪とは、保護責任者遺棄罪を犯し、被害者を死亡させたときに成立する犯罪です(刑法219条)。
① 遺棄とは
遺棄とは、要保護者を危険な場所に移送して保護のない状態におくこと、あるいは要保護者を危険な場所に置き去りにする行為をいいます。たとえば、前者は、保護責任者である親が幼い子供を山中に連れて行き捨てるといった行為などをいい、後者は、忘年会で泥酔した同僚との帰宅途中に、道路上に放置して立ち去る行為などがこれにあたります。
② 不保護とは
不保護とは、場所的隔離によらず要保護者を保護しないことをいいます。たとえば、赤子と同居する母親が、赤子の面倒を一切見ずに放置する行為などがこれにあたります。
③ 両罪の法定刑
保護責任者遺棄罪が成立した場合には、3月以上5年以下の懲役に処せられます。また、保護責任者遺棄致死罪が成立した場合、保護責任者遺棄罪の刑罰と傷害致死罪の刑罰を比較して重い方の刑罰が適用されますので、3年以上20年以下の懲役に処せられます。 -
(2)保護責任者の定義
保護責任者遺棄罪および保護責任者遺棄致死罪は、「保護責任者」という身分を有する人に対してのみ成立する犯罪です。すなわち、忘年会で同僚が亡くなったとしても、保護責任者に該当しなければ、保護責任者遺棄罪および保護責任者遺棄致死罪に問われることはありません。
保護責任者とは、法令、慣習、条理、契約などに基づいて要保護者を保護する責任があると認められる人のことをいいます。具体的にどのような範囲の人が保護責任者と認められるかについては、個別具体的な状況によって異なります。
たとえば、会社の忘年会であれば、忘年会に参加した従業員などは保護責任者としての義務を負う可能性があります。他方、見ず知らずの人が路上で泥酔状態にあるのを見かけただけでは、保護責任者としての義務はないでしょう。
2、歓迎会や忘年会で泥酔した人を放置したら、会社が責任を問われるケースはある?
歓迎会や忘年会で泥酔した人を放置した場合、個人ではなく会社が責任を問われることはあるのでしょうか。
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(1)安全配慮義務違反による損害賠償義務
安全配慮義務とは、従業員が安全かつ健康に働くことができるようにするために配慮すべき企業の義務をいいます。会社が安全配慮義務に違反して、労働者の生命、身体、健康などに危害が生じた場合には、それによって生じた損害を賠償する責任があります。
終業時間後の飲み会に関しては、会社の指揮監督下ではありませんので、基本的には、会社が安全配慮義務違反に問われることはありません。
しかし、忘年会や新年会などでは、飲み会への参加が事実上強制されていたり、会社が参加費用を負担していたりするなどの事情がある場合には、会社の業務と評価できる可能性があります。そのため、そのような飲み会で従業員が死亡したという場合には、会社は、その責任を負わなければならない可能性があります。 -
(2)使用者責任による損害賠償義務
使用者責任とは、従業員が他人に損害を与えた場合に、会社も従業員と連帯して賠償責任を負うことをいいます(民法715条)。このような使用者責任の規定は、報償責任の法理や危険責任の法理に基づく考えから、使用者にも損害賠償責任を認めています。
たとえば、会社の忘年会で泥酔した従業員を放置したために、死亡してしまった場合には、保護責任者にあたる上司や同僚が賠償責任を負うとともに、会社も使用者責任に基づく賠償責任を負う場合があります。ただし、会社に使用者責任が成立するためには、忘年会や新年会が指揮監督関係下にあることや会社の事業の執行に伴ったものであったといえる場合でなければなりません。 -
(3)業務災害にあたる場合には労災保険から補償が支払われる
業務中に怪我、病気、死亡という結果が生じた場合には、会社の損害賠償責任とは別に、労災保険から補償が支払われる可能性があります。ただし労災は、あくまでも業務中の事故が対象になりますので、忘年会や新年会が業務といえる必要があります。
一般的な飲み会では業務性は否定される傾向にありますが、参加が強制され、参加費も会社負担である飲み会であれば業務と評価される可能性があります。
3、従業員から訴えられた場合の対応方法
会社の安全配慮義務違反だけでなく、不当解雇などの事案でも会社が従業員から訴えられることがあります。従業員またはその家族から訴えられてしまった場合には、会社としては、以下のような対応が必要です。
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(1)当事者による協議
従業員から安全配慮義務違反による損害賠償請求や不当解雇の撤回などを求められた場合には、まずは、当事者の協議により解決を図ります。
その際には、従業員の主張する内容が正当なものであるかどうかを検討します。従業員の主張が法的に正当な主張であれば、基本的には和解による解決を目指しますが、法的に正当な主張であるかどうかは、弁護士でなければ判断が難しいこともあります。そのため、従業員から訴えられた場合には、早めに弁護士に相談し、今後の対応についてアドバイスを受けるようにしましょう。
また、従業員の主張が法的に正当な主張でない場合には、会社側からの反論を検討することになります。その際には、反論を裏付ける証拠が必要になりますので、どのような証拠が必要であるかについて弁護士によるアドバイスを受けるとよいでしょう。 -
(2)労働審判
当事者同士の話し合いにより解決ができない場合には、従業員から労働審判を申し立てられることがあります。労働審判は、裁判官1人と労働審判員2人で構成される労働審判委員会が労働者と使用者との間の紛争を解決する手続きです。原則として3回の期日で終了するため、迅速かつ柔軟な解決が期待できる手続きといえるでしょう。
従業員から労働審判の申し立てがあった場合、裁判所から申立書が届きますので、会社側としては、期限までに反論の答弁書を作成して、裁判所に提出しなければなりません。限られた期日で効果的な反論を展開するには、専門家である弁護士のサポートが必要になりますので、まずは弁護士に相談することをおすすめします。 -
(3)裁判
当事者同士の協議および労働審判で解決できない場合には、従業員から訴訟提起されることがあります。裁判は、当事者双方からの主張立証に基づいて、裁判所が結論を下す手続きです。裁判所に会社側の主張を認めてもらうためには、法的根拠に基づく説得的な主張を行い、それを裏付ける証拠を提出しなければなりません。
これらの対応をするにあたっては、弁護士のサポートが不可欠といえますので、早めに弁護士に相談して、準備を行うようにしましょう。
4、企業経営の法的アドバイスは顧問弁護士にご依頼を
労働問題をはじめとした企業法務に関するお悩みは、顧問弁護士にお任せください。
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(1)紛争を未然に防ぐことができる
顧問弁護士を利用するメリットとして、紛争を未然に防ぐことができるという点が挙げられます。
企業経営をしている中では多かれ少なかれ何らかのトラブルに直面することがあるでしょう。トラブルが生じるたび時間や人員を割いていると、本来の業務に支障が生じたり、大切な取引先を失ったりするリスクもあります。
円滑な企業経営を続けていくためには、トラブルを未然に防ぐという視点が重要です。顧問弁護士であれば、顧問先企業の現状の問題点を指摘し、改善に向けた法的アドバイスをすることができますので、予想できる法的トラブルに関しては、回避できる可能性が高くなります。 -
(2)法務部を設置するコストを抑えることができる
企業の法的トラブルの対応は、一般的には法務部が行うことになります。しかし企業によっては法務部を設置していないケースも多く存在します。また、設置するにあたっては、多額の費用が必要になりますので、法務部設置に踏み切れない企業も少なくないでしょう。
顧問弁護士は、企業の法務部に代わる存在になりますので、法務部を設置するよりもコストを抑えることができます。また、ベリーベスト法律事務所には月額3980円から利用できる顧問弁護士サービスを用意しています。必要なタイミングで専門的なサポートを受けることができますので、まずはお気軽にお問い合わせください。
5、まとめ
忘年会でお酒を飲みすぎた従業員が倒れて、亡くなってしまった場合には、忘年会に参加した従業員だけでなく、会社が保護責任者としての責任が問われる可能性があります。そのようなリスクを回避するためには、日ごろから顧問弁護士を利用して、法的リスクのチェックや社内ルールの改善、周知などの取り組みを行うことが有効です。
様々な法務トラブルに対応するため、顧問弁護士の利用をお考えの企業経営者の方は、まずはベリーベスト法律事務所 和歌山オフィスまでお気軽にお問い合わせください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています