従業員から社内ストーカーを相談されたときの対処方法と注意点
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和歌山県では、職場内で発生した労働条件や就労上の問題などのトラブル解決に向けて、相談内容に応じた各種相談窓口を設置しています。
毎日多くの時間を過ごすことになる職場では、さまざまな人間関係が生じることから、社内ストーカーの被害が発生するケースもゼロではありません。当事者同士の問題だからといってそのまま放置していると、社内ストーカーの行為がエスカレートし、会社としても責任を負わなければならなくなる可能性もあります。
そのため、社内ストーカーについては、被害への対応だけでなく被害の防止に向けた対策も重要です。今回は、従業員から社内ストーカーを相談されたときの対処法や注意点について、ベリーベスト法律事務所 和歌山オフィスの弁護士が解説します。
1、社内ストーカーとはどのような行為? ストーカー行為の定義とは
社内ストーカーとは、どういった行為のことをいうのでしょうか。以下では、ストーカー規制法上のストーカーの定義と社内ストーカーの具体例について、説明します。
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(1)ストーカー規制法上のストーカー行為とは
ストーカー行為を規制する法律には、ストーカー規制法(正式名称では「ストーカー行為等の規制等に関する法律」)があります。ストーカー規制法では、繰り返し行われる「つきまとい等」をストーカー行為としており、また、処罰の対象としています。
つきまとい等とは、特定の人に対する恋愛感情や好意的感情、またはそれが満たされなかったことへの怨恨の感情を充足する目的で、特定の人やその家族に対して、以下の行為をすることです。<つきまとい等>- ① つきまとい、待ち伏せ、押し掛け、うろつき、見張りなど
- ② 監視していると告げる行為
- ③ 面会や交際、復縁などの要求
- ④ 乱暴な言動
- ⑤ 無言電話や連続した電話・FAX・電子メール・SNSメッセージ・手紙など
- ⑥ 汚物などの送付
- ⑦ 名誉を傷つける
- ⑧ 性的羞恥心の侵害
また、同様の目的で以下の行為をすることも、ストーカー規制法による規制対象となります。
<位置情報無承諾取得等>- ① 許諾がない状態でGPS機器などを利用し、位置情報を取得する
- ② 許諾がない状態でGPS機器などを相手の所持品に取り付ける
なお、上記の行為を繰り返し行ったとしても、行為者に相手への恋愛感情や怨恨の感情がなければ、ストーカー規制法上のストーカー行為にはあたりません。その場合には、別途、迷惑行為防止条例違反に該当する可能性があります。
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(2)社内ストーカーの具体例
社内ストーカーとは、一般的に職場で構築された人間関係のなかで発生する、つきまとい行為などのことです。
社内ストーカーに該当する具体的な行為としては、以下のようなものが挙げられます。① 就業時間中やプライベートなどで頻繁に何度も連絡する
同じ職場に勤めている従業員同士であれば、プライベートな連絡先を知らなくても、社内メールやチャットなどでお互いに連絡をとることが可能です。業務上必要な連絡であれば問題はありませんが、私的な事柄について、就業時間やプライベート問わず、頻繁に何通もメールを送るような行為は、社内ストーカーにあたる可能性があります。
② プライベートな予定や行動を把握している
同じ職場であれば、同僚との会話などからプライベートの予定などを話すこともあるでしょう。社内ストーカーは、特定の人の予定や行動を把握するために、いつも近くで聞き耳を立てていたり、個人用のSNSアカウントを探ったりしている可能性があります。
また、社内の誰もいない時間帯にスケジュール帳などを盗み見て、プライベートな予定を把握するというのも社内ストーカーの手口です。
③ 通勤前や終業後に待ち伏せをする
職場への通勤前や終業後に待ち伏せをして、一緒に職場に向かったり、帰宅したりしようとすることも社内ストーカーのよくある手口といえるでしょう。
自宅や最寄り駅などを知ろうとしているケースもあるため、注意が必要です。
④ 不必要に接触をしてくる
社内ストーカーは、不必要に身体的な接触をしたり、用事があるわけでもないのに無駄に会話しようとしたりすることもあります。
従業員が安心して働くことができるように、まずは上記に当てはまるようなことが起こっていないかを確認するようにしましょう。
2、社内ストーカーを行う従業員への対処法
社内ストーカーを行う従業員がいる場合、会社としては、以下のような対応をすることが必要です。
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(1)社内ストーカーが行われている状況を放置しない
会社は、職場内で行われる性的ハラスメントによって、労働者の就業環境が害されることがないようにするために、必要な措置を講じなければならないとされています(男女雇用機会均等法第11条1項)。
また、会社は労働契約上の義務として、職場環境配慮義務を負っているため、社内調査の結果、社内ストーカーを把握した場合には、適切な対応をしなければなりません。
社内ストーカーの疑いがある事案を把握した場合には、当事者同士の問題だと放置するのではなく、問題の改善・解消に向けて行動に移していくことが大切です。 -
(2)被害に遭っている従業員からヒアリング
社内ストーカーの被害を把握したら、その事実関係を明らかにするために、被害に遭っている従業員からヒアリングを行いましょう。その際、社内ストーカーの被害を裏付ける証拠があれば、その提出も求めていきます。
被害者からのヒアリングによって、社内ストーカーの可能性が認められた場合には、加害者に対しても事実確認を行うことが必要です。ただし、加害者へ事実確認をしたことで、ストーカー行為がさらにエスカレートする可能性もありますので、加害者への対応は慎重に行うようにしてください。 -
(3)配置転換などにより接触が困難な状況にする
社内ストーカーの当事者からの聞き取りにより、ストーカー行為の事実があると判断した場合には、具体的な対策を検討していくことになります。
たとえば、当事者同士が同じ部署内の従業員である場合には、お互いが接触する機会を減らすために、別の部署や支店などへの配置転換を検討しましょう。会社の規模からして配置転換が難しいという場合には、業務以外に接触をしないよう、会社において仕事の振り分けを工夫するなどの対応が必要になります。
また、社内ストーカーがあったということは当事者の上司などに周知し、再発防止を目的に普段から目を配っておくことが大切です。 -
(4)警察への相談
社内ストーカーがストーカー規制法上のストーカー行為に該当する場合には、警察に相談をすることも有効な手段となります。
警察から、加害者にストーカー行為をやめるよう命じてもらうこともでき、悪質なストーカー行為に対しては、罰則をもって対応してもらうことが可能です。 -
(5)弁護士への相談
社内ストーカーが発生した場合の具体的な対応がわからないという場合には、弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士であれば、具体的な対応策をアドバイスしてくれますので、問題が深刻化する前に適切な対応をとることができるでしょう。 -
(6)懲戒処分や解雇は慎重に検討する
社内ストーカーをした従業員に対しては、懲戒処分や解雇を検討する企業もあるかもしれませんが、このような処分は慎重に行う必要があります。
労働契約法上、懲戒処分や解雇は厳格なルールが定められており、それらを踏まえたうえで処分を行わなければなりません。ストーカー行為の内容によっては、処分が重すぎると判断される可能性もありますので、これらの処分を下す場合には、まずは弁護士に相談をしてから判断するとよいでしょう。
3、適切な対処方法を行わなかった場合に起こり得る被害とは
会社が社内ストーカーの被害を知りながら適切な対応を行わなかった場合には、以下のような被害が生じるリスクがあります。
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(1)被害状況の悪化
社内ストーカーが行われている状況を放置したり、その対応を誤ったりすると、ストーカー行為がエスカレートして深刻な被害が生じるおそれがあります。社内ストーカーに悩んだ被害者がうつ病を発症した、自殺をしたなどの場合には、会社としての責任を問われる可能性もあるでしょう。
そのため、社内ストーカーの事案を把握した際には、迅速に適切な対応をとることが重要になります。また、そのためには社内ストーカーを早期に発見することができる環境を整備することも大切です。 -
(2)会社への不信感による離職
社内ストーカーの問題を放置してしまえば、従業員の間で会社に対する不信感が高まることは免れないでしょう。そうすると、会社の雰囲気も悪化してしまい、被害に遭っている従業員だけでなく周囲の従業員も退職してしまうおそれがあります。
優秀な人材が流出してしまえば、会社としても大きな損害となるため、問題が明らかになった場合は放置することなく、適切に対応するようにしましょう。 -
(3)不当解雇や不当処分を理由とする訴え
社内ストーカーをしている従業員を安易に解雇してしまうと、ストーカー加害者から不当解雇を理由に訴えられてしまうおそれがあります。
十分な調査をすることなく、いきなり解雇をしていた場合には、裁判で敗訴する可能性もあり、そのような結果になれば解雇が無効になるだけでなく、解雇期間中の賃金などの支払いにも応じなければなりません。
社内ストーカーの被害に関する相談を受けたら、まずはしっかりと調査を進めて、事実関係を確認するようにしてください。
4、今後の社内ストーカー対策のために会社側ができること
今後社内ストーカーの問題が起きないように会社ができる対策としては、以下のものが挙げられます。
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(1)就業規則に禁止事項を定めて周知徹底
就業規則において、懲戒事由や解雇事由を記載している企業も多いでしょう。
一般的には、「社員が罪を犯したこと」を懲戒解雇の事由として定めていることが多いですが、社内ストーカーの場合には、犯罪行為にあたるかどうかの線引きが難しい部分もあります。
社内ストーカーも処分の対象であることを従業員に理解してもらうためには、どのような行為が処分の対象になるのかを具体的に就業規則で明記するとともに、従業員に対して周知徹底することが大切です。 -
(2)社内研修の実施
就業規則に規定したとしても、すべての従業員がその内容を十分に理解しているわけではありません。社内ストーカーの問題意識を共有するためには、定期的な社内研修の実施が有効です。
無意識に社内ストーカーを行っている従業員がいたとしても、研修で挙げられた事例が自らの行為に合致することに気付けば、問題に気付いてストーカー行為から手を引いてくれる可能性もあります。 -
(3)相談窓口を設ける
会社として社内ストーカーの被害を早期に発見するためには、相談窓口を会社内に設けることが有効な対策となります。
社内ストーカーの被害者が相談しやすいものとするためにも、プライバシーへの配慮や相談窓口の周知徹底などを行っていくことが大切です -
(4)顧問弁護士を雇う
顧問弁護士を雇うことによって、社内ストーカーを防止するための体制整備や社内研修の講師を依頼することができます。法的な観点から問題が生じないようなルール作りをしていくためには、弁護士のサポートが不可欠です。
また、社内ストーカーの問題に限らず、企業法務などに関して悩みや問題があれば、頼もしい味方となってくれます。まだ顧問弁護士を利用したことがないという企業は、積極的に利用を検討してみましょう。
5、まとめ
社内ストーカーの問題は、従業員同士の問題ではなく会社が適切に対処しなければならない問題です。社内ストーカーの問題に適切に対応するためにも、まずは弁護士に相談をすることをおすすめします。
社内ストーカーの問題でお悩みの場合は、ベリーベスト法律事務所 和歌山オフィスまでお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています