生理休暇とは? 制度導入前に知っておくべき基礎知識とトラブル事例

2022年11月15日
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生理休暇とは? 制度導入前に知っておくべき基礎知識とトラブル事例

総務省統計局「平成29年 就業構造基本調査の結果」では、和歌山県での生産年齢人口(15歳~64歳)の有業率について、女性は66.7%と公表されています。

生理休暇とは、労働基準法で認められている女性特有の休暇制度ですが、広く認識されているとはいえず、取得率も低い状況にあるものです。女性が働きやすい職場を整えるには、企業独自の生理休暇制度を導入するとともに、しっかりと周知していくことも重要です。

他方、生理休暇の導入に伴い、不正に休みを取得されるといったトラブルが生じる可能性もあるため、実際に不正があった際の対応も考えていかなければなりません。本コラムでは、生理休暇の基礎知識とトラブルへの対応について、ベリーベスト法律事務所 和歌山オフィスの弁護士が解説します。

1、生理休暇の制度とは? 労働基準法と世の中の取得状況

最初に、生理休暇の概要やどのくらい取得されているものなのかを解説します。

  1. (1)生理休暇とは

    生理休暇とは、女性が生理日に仕事をすることが著しく困難な場合において、休みを取得することが法的に認められた制度です。就業が著しく困難な場合とは、生理期間中に下腹痛や腰痛、頭痛などで仕事の遂行が難しい状態をいい、担当業務の種類を問わずに休みを申請できます。

    生理休暇は、労働基準法第68条によって認められている制度であることから、会社に生理休暇の制度がなかったとしても、生理休暇の申請があれば、休みを与えなければなりません
    生理休暇の申請があったにもかかわらず、休みを与えなかった場合は、30万円以下の罰金を科されるおそれがあるため、注意しましょう。

    生理休暇を取得できる日数や賃金については、以下のとおりです。

    ① 生理休暇の取得可能日数
    労働基準法では、生理休暇で休める日数を特別定めていません。生理による痛みの程度や不調の内容には個人差があるからです。就業規則においても、生理休暇の日数を限定できない点に注意しましょう。
    精神的・身体的不調が生じるPMS(月経前症候群)については、生理日に該当しないという理由により、生理休暇を与える義務はありません。ただし、就業規則において、生理休暇の対象にPMSを含めることは可能です。

    ② 生理休暇中の賃金
    労働基準法では、「生理休暇をとった方には賃金を支払う必要がある」といった内容を定めていません。つまり、生理休暇をとっているときは無給扱いとなるのが原則です。
    もっとも、就業規則や労使間の合意により、生理休暇中の賃金は有給扱いとする旨を定めていたとすれば、生理休暇をとった社員に賃金を支払わなければなりません。
  2. (2)生理休暇の取得状況

    厚生労働省「令和2年度 雇用均等基本調査」の資料によると、女性社員がいる事業所のうち、生理休暇の請求者がいた事業所の割合は3.3%でした(平成31年4月1日~令和2年3月31日までの期間)。また、女性社員のうち、生理休暇の請求を行った人の割合は、0.9%となっています。

    調査結果を見てわかるとおり、生理休暇の取得状況は非常に低い割合です。その要因には、生理休暇制度の周知が十分でない、職場環境的に休みをとりづらいといったことが挙げられるでしょう。

2、生理休暇を導入する方法とメリット

ここからは、生理休暇制度の導入方法と導入メリットを説明します。

  1. (1)生理休暇を導入する方法

    前述のとおり、生理休暇は労働基準法上認められている制度です。会社に生理休暇制度がなかったとしても、生理休暇をとりたい旨の申請があれば、休みを与えなければなりません。

    以下、導入のために確認しておくべきポイントを確認してください。

    ① 就業規則における制度設計
    突然の生理休暇の取得申請で戸惑わないためにも、就業規則などにおいて、生理休暇制度を定めておくことがおすすめです。労働基準法が定める生理休暇制度よりも不利にならなければ、会社は就業規則における生理休暇制度を自由に決めることができます。
    労働基準法では無休扱いとなっていますが、就業規則で有給扱いにすることも可能であるため、社員の希望なども考慮して制度設計をしていくとよいでしょう。

    ② 休暇取得に関するルール決め
    生理休暇は、その性質上、事前申請が難しいことから、当日の申請を認めるのが一般的です。休み自体は暦日単位ではなく、時間単位や半日単位で与えることも可能です。
    生理休暇の申請にあたって、医師の診断書の提出を求めることは権利行使を妨げることになるため、診断書の提出は不要である点に留意してください。
  2. (2)生理休暇を導入する2つのメリット

    生理休暇を導入すると、以下のようなメリットがあります。

    ① 女性が働きやすい職場環境になる
    生理期間は、下腹痛や腰痛、頭痛などの症状が生じることがあります。症状が重い方は、働くことが難しくなるほどの痛みに苛まれる日も少なくありません。就業規則などで正式に生理休暇が認められている職場であれば、生理の症状が重い方でも無理に働くことなく、安心して休みをとってもらえます。
    生理期間の就労は、女性社員が特に気になる部分です。生理休暇があれば、女性が働きやすい職場環境を整備できるでしょう。

    ② 仕事の効率がアップする
    精神的・身体的不調のある生理日に無理して働いたとしても、満足いくパフォーマンスを発揮することはできません。生理休暇をとって、心身ともに体調を整えてから仕事に臨むことによって、作業効率の改善にもつながるでしょう。

3、生理休暇の制度でトラブルになる可能性もある

生理休暇制度を導入することで、以下のようなトラブルが生じる可能性もありますので、注意が必要です。

  1. (1)生理休暇の不正取得によるトラブル

    生理休暇を取得する際には、女性社員から診断書などの提出を求めることはなく、女性社員の自己申告によって生理休暇の取得を認める扱いが一般的です。
    しかし、女性社員の自己申告に委ねると、生理でも仕事が著しく困難な体調ではない日、または生理ではない日に、生理休暇の申請をするといった生理休暇の不正取得が発生する可能性があります。

    このような生理休暇の不正取得が判明した際には、以下のような対応をとることが考えられるでしょう。

    • 不正が発覚した場合には、「休暇」ではなく「欠勤」扱いとする
    • 悪質なケースでは、懲戒処分を検討する


    なお、生理休暇の不正取得に関する裁判例(盛岡地裁一関支部平成8年4月17日判決)では、バス会社の社員が趣味の民謡大会に出場することを目的として、生理休暇を取得したことが生理休暇の不正取得であると認められ、会社側の懲戒処分(休職処分)を有効と判断したものがあります。

  2. (2)対応の仕方によってはハラスメントに該当するおそれがある

    生理休暇の取得申請があった場合、当該女性社員への対応によっては、ハラスメントに該当する可能性もあるため、注意が必要です。

    たとえば、「つらいのはみんな同じだから我慢したら?」「本当に生理なの?」といったことを聞くと、パワーハラスメントやセクシュアルハラスメントを理由に訴えらえるリスクがあります。

4、新しい制度の導入を弁護士に相談するべき3つの理由

生理休暇などの新しい制度の導入をお考えの際には、弁護士に相談することをおすすめします。

  1. (1)各種制度のメリット・デメリットを把握できる

    新しい制度を導入する場合には、会社としてもどのような内容なのかがわからず、導入をためらうことも少なくないでしょう。新しい制度を導入することは、メリットもあればデメリットもありますので、それらを正確に理解したうえで、制度の導入を判断することが大切です。

    弁護士は、さまざまな制度の概要やメリット・デメリットを詳しく理解しているため、弁護士に相談すれば、各種制度の特徴などを正確に把握することができます

  2. (2)具体的な制度設計のサポートを受けることができる

    新制度を導入するときは、具体的にどのような内容の制度にするかを考えていかなければなりません。
    たとえば、生理休暇を例にしても、生理休暇を有給とするのか無給とするのか、生理休暇の取得単位(1日、半日、時間単位)をどうするのか、生理休暇の申請方法をどうするのかなど、さまざまな内容を考える必要があります。

    制度設計については、企業の実情に応じてさまざまなものが考えられますので、企業の実情にマッチした制度にするためには、専門家である弁護士のサポートが不可欠です。

  3. (3)顧問弁護士の利用によって継続的なサポートが受けられる

    新制度導入にあたって弁護士に相談をする場合には、その場限りの相談ではなく、今後も継続的に相談をすることができる顧問弁護士の利用をおすすめします。

    顧問弁護士は、依頼を受けた企業の実情を把握することになるため、万が一トラブルが生じたとしても、迅速にトラブル解決に向けた対策を講じることが可能です。普段から顧問弁護士に相談することができる環境であれば、法的観点から悩みが生じたとしても気軽に相談できるため、労働問題に発展する前に事態を収拾することもできます。

    企業の継続的な発展を目指すためには、法務面からのサポートが不可欠となりますので、弁護士に相談の際には、顧問弁護士の利用を検討してみてはいかがでしょうか。

5、まとめ

生理休暇とは、労働基準法上認められている女性社員特有の権利です。会社独自の生理休暇の制度を導入することによって、女性社員が働きやすい職場を整備することができますので、積極的に検討を進めるとよいでしょう。

なお、生理休暇以外にも、休暇制度にはアニバーサリー休暇やリフレッシュ休暇など、さまざまな種類があります。新しい休暇制度を導入する場合には、各種制度のメリット・デメリットを正確に理解することが必要となりますので、弁護士のサポートが不可欠です。

制度導入など企業法務のことでお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 和歌山オフィスまでお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています