育成者権とは|守られる範囲や効力が及ばない範囲など詳しく解説
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農林水産省の「品種登録データ検索」のデータベースによると、品種登録制度によって品種登録が維持されており、品種登録者の住所が和歌山県のものである件数は、令和4年11月末時点で55件あるようです。
農業従事者などの中には、「野菜の新品種を作ったけど、品種登録のことがわからない」「育成者権は、どこまでを保護する権利なのだろう」という疑問をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。
この記事では、品種登録制度の手続きや育成者権の範囲などについて、ベリーベスト法律事務所 和歌山オフィスの弁護士が解説します。
1、育成者権とは
まずは、育成者権の概要や保護期間といった基本情報を説明します。
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(1)育成者権の概要
育成者権とは、一種の知的財産権であり、新しく育て上げられた植物品種を保護する権利のことです。
育成者権を定める法律は種苗法と呼ばれ、新品種を育て上げた者に育成者権を与えることで、新品種を一定期間保護するための品種登録制度を設けて、新品種の開発を促進しています。
育成者権が認められた者は、業として、登録品種および登録品種と明確には区別されない品種の収穫物や種苗、一定の加工品を利用する権利を排他的・独占的に有することになります。
ここでいう「利用する権利」とは、登録品種などを独占的に生産・販売などができたり、登録品種などの生産・販売を許諾して許諾料を取得できたりする権利です。 -
(2)育成者権が保護される期間
育成者権は、その植物品種が登録されてから初めて発生します。
存続期間は、種苗法の定めにより、品種登録日から最長25年(果樹等の木本は最長30年間)となっているため、永遠と権利を得られるわけではない点に注意が必要です。
2、品種登録制度と申請の流れについて
育成者権を有するために必要な品種登録とは、どのような制度なのでしょうか。ここからは、品種登録制度の目的や申請の手続きを解説します。
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(1)品種登録制度の目的
品種登録制度で育成者権が保護されずに、新品種の種苗を手に入れられるとしたら、誰しもが新品種を増殖させて販売することが可能となってしまうでしょう。
そうすると、時間や労力、財産をつぎ込んで新品種を育成できたとしても、開発までのコストに報いることができないために、先駆者には新品種を開発するインセンティブが失われてしまうことになります。
そこで、種苗法は、品種登録制度を設けることで育成者権を付与し、新品種に保護を与えているのです。
仮に特許制度がなく、発明を全く保護しないとしたら、どうでしょうか。発明者の創意工夫は減退し、誰しもが新しい発明をしなくてなってしまうはずです。このような状況になることを避けるために、特許権として独占的な権利を与えることで、発明者を保護しています。
このように、品種登録制度は、特許制度と同じような発想といえるでしょう。 -
(2)品種登録制度の申請手続き
新品種を育成した場合、農林水産省宛てに品種登録を申請することが可能です。この申請を「出願」と呼び、おおよそ、出願から登録までに2、3年かかります。
出願の際には、農林水産省の公式ウェブサイト上に出願書や説明書(出願品種の育成および繁殖の方法、出願品種の特性などを整理した内容)、特性表の書式などが公開されているので、ご活用ください。事前準備としては、類似品種との比較栽培試験、データの収集や整理、写真撮影、種子採取などを行うことが必要です。
出願すると、形式的な書類の審査に続いて出願公表されます。その後は、新品種の特性審査や名称の審査、未譲渡性の審査が行われます。
無事に品種登録が完了すると、品種名、植物体の特性、登録者の氏名・住所、育成者権の存続期間などが品種の登録簿に記載され、また、官報でも公示されます。 -
(3)品種登録の5要件
品種登録が認められるためには、決められた5つの要件をすべて満たさなくてはなりません。以下、簡単にご説明いたします。
① 区別性
当該出願対象である品種が、品種登録の出願前に国内および外国で知られている他の品種と重要な形質に係る特性の全部、または一部によって、明確に区別できること
② 均一性
同一の繁殖段階に属している植物体のすべてが、重要な形質に係る特性において、十分に類似していること
③ 安定性
繰り返し繁殖させた後であっても、重要な形質に係る特性の全てが変わるようなことがないこと
④ 未譲渡性
日本国内では、出願日から1年をさかのぼった日以前に出願した品種の収穫物、あるいは種苗を業として譲渡していないこと、国外では、日本での出願日から4年(果実のなる樹木等の永年植物は6年)さかのぼった日よりも前に同様に譲渡していないこと
⑤ 名称の適切性
品種の名称が、既存の品種や登録商標と類似していないこと、また、紛らわしくないこと
3、育成者権で守られる範囲・効力が及ばない範囲
ここでは、育成者権が認められる範囲とその例外をご説明いたします。育成者権は、独占的・排他的な側面が強い権利であるため、どの範囲が対象となるのかを把握することは重要です。
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(1)効力が及ぶ範囲
育成者権の効力が及ぶ品種は、出願された品種だけではありません。
以下の3類型の品種も育成者権の効力が及ぶ範囲であり、保護の対象となります。① 登録品種と特性によって明確に区別されない品種
育成者権は、登録品種と特性によっては明確に区別されない品種についても、独占的に利用することができます。特性により明確に区別できない(つまり同様の品種といえる)ため、新品種として登録された品種と同様の保護を与えられるべきということです。
② 登録品種に由来する品種(従属品種)
登録品種に由来する品種(従属品種)も、育成者権で守られる対象となります。
このような登録品種に由来する品種(従属品種)とは、主に親となる登録品種に由来するもので、その特性を変えて育成されたものです。従属品種の特性は、親の品種と明確に区別できるため、品種登録を受けられます。
従属品種に該当するかどうかの判断に、一律の基準はありません。DNA試験などを実施するなど、さまざまな事情を総合して個別的に判断されます。
③ 繁殖時に登録品種を交雑させる必要のある品種(交雑品種)
繁殖を目的に、常に登録品種を交雑させる(異種や異系統などの関係にあるものを人工的に交配させる)必要のある品種も、育成者権の効力が及びます。
たとえば、品種Aを育成するために、登録品種である品種Xと品種Yを必ず交雑する必要があるとき、Aは、XとYの交雑品種となります。 -
(2)効力が及ばない例外
独占的な利用権がある育成者権ですが、以下の2点に関しては、例外的に効力が及ばず、許諾なしでも登録品種を利用することが許されています。
① 新品種の試験、研究目的の利用の場合
新品種の育成や試験、または研究目的による品種の利用は、育成者権での保護の対象外となります。新品種の育成は、既存の品種を交配し、また選抜によって行われるために、新品種を生み出そうとする者は、既存品種を生産する必要があるからです。
② 権利消尽の場合
育成者権を有する者から登録品種の種苗や収穫物などが譲り渡されるようなケースでは、その譲渡物に対して、育成者権の効力は及びません。また、当該当該譲渡物を有権者からの許諾を得ずに譲り渡すことも可能です。
4、育成者権が侵害された際の法的措置
ここからは、他者から育成者権が侵害されてしまった場合の対応をご説明します。
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(1)民事上の措置
許可もなく育成者権が侵害されたときは、下記のような民事上の措置を請求することが可能です。
- 権利侵害によって発生した損害の賠償請求
- 侵害された種苗や収穫物などの流通を差し止める請求
- 信用回復のための必要な措置の請求
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(2)刑事上の措置
刑事上の措置としては、侵害者が個人であれば懲役10年以下、または1000万円の罰金(併科可能)、法人であれば3億円以下の罰金といった重い刑事罰を受ける可能性があります。
5、まとめ
育成者権や品種登録制度は、特許制度と類似しており、きちんと理解するには十分な経験と知見が必要です。特に、育成者権の侵害が疑われる際は、権利で保護されている範囲を踏まえて、侵害の有無を慎重に検討し、対応をしなくてはなりません。
実際に侵害があったと考えられるようなケースでは、裁判などの法的手続きを見据えて相手方と交渉する必要があるため、弁護士への相談が重要です。
ベリーベスト法律事務所 和歌山オフィスでは、品種登録制度や育成者権に関するご相談を受け付けております。実際にトラブルが発生しているなど、お困りの際には、ぜひ一度ベリーベスト法律事務所 和歌山オフィスまでお問い合わせください。
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