弁護士が解説! 審査請求のやり方と流れ
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国や地方公共団体からの行政処分に納得がいかない場合には、審査請求という方法によって、不服申し立てをすることができます。
行政処分というと「自分には関係ないこと」と考える方も多いかもしれません。しかし、多くの方は、運転免許の取り消し処分や停止処分、営業許可の取り消し処分、労災認定など日常生活のさまざまな場面で行政処分と関わっています。
このような処分に納得がいかないときは、審査請求などの不服申し立てによって適正な処分となるよう求めることができます。本コラムでは、審査請求のやり方や流れについて、ベリーベスト法律事務所 和歌山オフィスの弁護士が解説します。
1、審査請求とは
審査請求とはどのようなものなのでしょうか。以下では、審査請求に関する基本事項について説明します。
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(1)審査請求の概要
審査請求とは、国や地方公共団体からの行政処分に不服がある場合に申し立てができる制度です。
行政処分というとあまり聞きなれない方も多いかもしれませんが、代表的な行政処分の例として以下のようなものがあります。- 運転免許証の取り消し、停止処分
- 営業許可の取り消し処分
- 営業の許認可
- 税金の賦課処分、滞納処分
- 建築確認
- 労災認定
例からもわかるように、実は私たちが日常生活で行政処分に関わる機会は少なくありません。
このような国や地方公共団体が行う処分でも、法令の解釈や適用を誤っていることがあります。そのため、処分に納得できない場合には、審査請求によって適正な処分を求めていく必要があります。
なお、以前は、行政処分に対する不服申し立ての手段として、「審査請求」と「異議申し立て」の2種類がありましたが、平成28年の行政不服審査法改正によって、審査請求に一元化されました。 -
(2)審査請求ができる条件とは?
審査請求をする場合には、以下のような条件を満たす必要があります。
① 審査請求ができる人
審査請求をすることができるのは、以下の人です。- 行政処分を受けた当事者
- 申請に対する処分が行われない場合には申請者
- 第三者による処分により権利侵害を受ける人または受けるおそれのある人
② 審査請求できる期間
審査請求をする場合には、処分があったことを知った日の翌日から3か月以内に行わなければなりません。また、処分があった日の翌日から1年が経過すると、処分を知らなかったとしても審査請求をすることができなくなってしまいますので注意が必要です。
③ 用意するもの
審査請求をする場合には、以下の書類を用意する必要があります。- 審査請求書(原則として正本1通、副本1通)
- 処分庁から送られてきた処分通知書の写し
- 委任状(代理人によって審査請求をする場合)
④ 審査請求にかかる期間
審査請求にかかる期間は、事件の複雑さの程度や他の事件の処理状況などによって変わってくるため一概にはいえません。
ただし行政不服審査法では、標準審理期間を定めるよう努めること、およびそれを公にすることが定められています。審査請求から裁決までにかかる期間や流れなどの概要は、審査庁(審査請求を受けた行政庁)のホームページに掲載されていることが多いため、確認してみるとよいでしょう。
⑤ 審査請求の請求先
審査請求は、法律に特別の規定がない限り、処分をした行政庁(処分庁)の最上級行政庁である都道府県知事や市町村長、または主任の大臣などに対して行います。上級行政庁がない場合には、当該処分庁に対して行います。 -
(3)審査請求以外の救済方法もある
国や地方公共団体による処分に不服がある場合には、審査請求によって再度審理を求める方法が一般的ですが、処分庁に対する再調査の請求や再審査請求という方法での不服申し立ても可能です。
また、審査請求によっても結論が覆らないような場合には、行政事件訴訟法に基づく取消訴訟を提起するという方法もあります。取消訴訟の詳しい内容については、3章で後述します。
さらに、国や地方公共団体の処分などによって、財産上の損害を受けた場合には、国家賠償法に基づく損害賠償請求をすることもできます。
このように審査請求以外にもさまざまな法律上の救済手段がありますので、状況に応じて適切な手段を選択することが大切です。
2、審査請求の流れ
審査請求は、以下のような流れで進んでいきます。
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(1)審査請求書の提出
審査請求をする場合には、以下の事項を記載した審査請求書を作成して、審査を行う行政庁(審査庁)に提出します。
- 審査請求人の住所、氏名
- 審査請求にかかる処分の内容
- 審査請求にかかる処分を知った年月日
- 審査請求の趣旨および理由
- 処分庁の教示の有無およびその内容
- 審査請求の年月日
審査請求書には統一の書式がありません。対象となる行政処分の種類ごとに、管轄の行政庁が書式を定めている場合がありますので、確認されることをおすすめします。
審査庁では、提出された審査請求書を確認し、形式面に不備がある場合には、審査請求人に対して補正を求めます。 -
(2)審理員の指名
審理員とは、審査請求において審理を行う人のことをいいます。審査請求の公正性・透明性を確保するために、審理員は、審査庁の職員のうち処分に関与していない人などのなかから選ばれます。
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(3)審理手続き
審理員は、審査請求書を処分庁に送付し、弁明書の提出を求めます。処分庁から弁明書の送付があった場合には、審査請求人はさらに反論書の提出をすることができます。
このように、審査請求人と処分庁によって主張・反論や証拠の提出が行われ、審理が進められていきます。その後、審理員が必要な審理を終えたと認めた場合には、審理手続きを終結します。 -
(4)審理員意見書の作成および提出
審理手続きを終結したときは、審理員は、遅滞なく審理員意見書を作成し、速やかに、審理員意見書と事件記録を審査庁に提出します。
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(5)第三者機関への諮問・答申
審査庁は、審理員意見書の提出を受けた場合、一定の場合を除いて、行政不服審査会などの第三者機関に諮問することが義務付けられています。
諮問を受けた第三者機関では、審査庁の判断の妥当性を第三者の立場からチェックして、その結果を審査庁に答申します。 -
(6)裁決
審査庁は、第三者機関からの答申内容を踏まえて、審査請求の裁決をします。裁決の種類には、以下の3つがあります。
- 却下(審査請求が不適法である場合)
- 棄却(審査請求に理由がない場合)
- 認容(審査請求に理由がある場合)
3、取消訴訟とは
取消訴訟とは、国や地方公共団体による処分の取り消しを求めて、裁判所に訴えを提起することをいいます。
審査請求と取消訴訟は、いずれも処分の取り消しを求める救済手段という点で共通します。
しかし審査請求は、審査庁、つまり審査請求先の行政が行うものですので、行政自身によって処分の違法性や不当性が判断される手続きとなります。そのため、審査請求自体には費用はかかりませんし、審理過程が公開されることはありません。
これに対して、取消訴訟は、裁判所に対して行うものですので、行政の違法性や不当性は裁判所によって審理されます。裁判にかかる費用は原告が負担することになりますが、審理は公開の法廷で行われます。
なお、行政処分に不服がある場合には、審査請求をするか取消訴訟をするかを自由に選択できるのが原則です。
しかし、法律に当該処分についての審査請求に対する裁決を経た後でなければ処分取り消しの訴えを提起できないとする「審査請求前置」の規定がある場合には、行政不服申し立てをしてからでなければ、取消訴訟を提起することはできません。
4、弁護士ができること
国や地方公共団体による処分に納得ができないという場合には、まずは、弁護士にご相談ください。
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(1)処分の違法性・不当性を判断できる
国や地方公共団体による処分であっても、法令の解釈や適用を誤ったり、裁量を逸脱した処分がなされたりすることがあります。そのような違法・不当な処分がなされた場合には、審査請求や取消訴訟によって処分を取り消すよう申し立てることが可能です。
しかし、国や地方公共団体による処分の違法性・不当性は、当該処分に関連する法令の解釈を熟知していなければ判断することができません。一般には判断が難しい事項といえますので、まずは弁護士に相談することをおすすめします。 -
(2)審査請求の手続きを代行できる
国や地方公共団体による処分が違法・不当なものであった場合には、まずは、審査請求の手続きを行っていきます。
審査請求は、処分を知った日から3か月以内という非常に短い期間制限が設けられていますので、その期間内に審査請求書の作成や証拠の収集などを行っていかなければなりません。
行政不服申し立ての知識や経験がなければ、迅速かつ適切な対応は困難です。そのため、審査請求には、弁護士のサポートが不可欠といえるでしょう。弁護士に依頼をすれば、書類の作成・収集や審査請求後の審査庁とのやり取りなどすべての対応を任せることができます。
5、まとめ
国や地方公共団体により違法・不当な処分を受けた場合には、審査請求によって処分の取り消しなどを求めることが可能です。
審査請求は、取消訴訟に比べて短期間で結論を得ることができますので、どちらも利用できる場合には、まずは審査請求を利用してみるとよいでしょう。
審査請求をするにあたっては、弁護士のサポートが不可欠です。審査請求をお考えの方は、ベリーベスト法律事務所 和歌山オフィスまでお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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