グルーミング行為とは|子どもに性犯罪を犯す人間の手口や罪

2023年07月25日
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グルーミング行為とは|子どもに性犯罪を犯す人間の手口や罪

和歌山県警察が公表する「和歌山県の犯罪情勢(令和4年)」によると、令和4年に和歌山市内で発生した犯罪の認知件数は1738件でした。また、和歌山県警察のサイトでは、子どもが性犯罪に遭わないようにするためにも、知らない人には付いていかないように、何度も繰り返し教えることを推奨しています。

子どもへの性犯罪で注意したいことのひとつに、「グルーミング」という行為があります。これは、大人(主に男性)が性的な目的で子どもに近づき、親しくなることです。令和5年7月に刑法改正があったものの、グルーミングだけの段階では、いまだ犯罪は成立しません。しかし、その後に性行為などの目的が潜んでいることを考えると、グルーミングは卑劣な行為と言うべきでしょう。

親としては、子どもをグルーミングや性犯罪から守るため、子どもの様子をよく観察することが大切です。必要に応じて、行政の窓口や弁護士の助けを得ることもご検討ください。今回は、子どもに対するグルーミング行為の例や、子どもを性被害から守るために親ができることなどを、ベリーベスト法律事務所 和歌山オフィスの弁護士が解説します。

1、グルーミングとは?

子どもに対する性的な搾取につながり得る行為として、いわゆる「グルーミング」を処罰する規定の新設が検討されています。

  1. (1)グルーミング=子どもに接近して手なずける行為

    グルーミング(チャイルドグルーミング)とは、子どもからの信頼を得て、その罪悪感や羞恥心を利用するなどにより、関係性を操る行為です。特に、子どもを手なずけることによって、性的な接触・搾取をする目的で行われるケースがよく見られます。

    グルーミングは本来、「動物の毛繕い」という意味の英語(grooming)です。ただし、人間にとってのグルーミングは、上記のように性犯罪的な意味を指すことがあります。

    単に「親切心から気にかけてくれる人」といった印象から、子どもの側にいる親でも、グルーミングの意図を有する大人を積極的に受け入れてしまっているケースがあるため、注意が必要です。

  2. (2)グルーミング自体は犯罪ではない|しかし今後規制の可能性あり

    グルーミングの段階では、一般的にはまだ具体的な性的接触・搾取は行われません。そのため、グルーミングの行為自体を犯罪として処罰することはできません

    ただし、グルーミングに引き続いて性的接触・搾取が行われる可能性が高い点が問題視され、性被害を予防する観点から、グルーミングの段階で法的な規制を及ぼすべきではないかと議論されている状況でした。

    法務省が公開する「性犯罪に関する刑事法検討会 取りまとめ報告書(令和3年5月)」では、「SNSなどでの書き込みの中でも、特に児童買春に直結するような危険性を有するグルーミングについては、類型化したうえで処罰する余地はある」という趣旨の意見が述べられています。

    一方で、「子どもに連絡する・面会を求めるような行為は、常に客観的に性的な危険性をはらむものではないため、グルーミングを行った者の主観面だけを根拠に処罰することになりかねず、理論的に処罰を正当化することが困難である」という趣旨の意見もあったようです。

    このような背景のもと、令和5年7月13日の刑法改正により、16歳未満の子どもに対するわいせつ目的での面会要求等が取り締まりの対象となりました。注意点としては、前述のとおり、グルーミング自体が犯罪となったわけではありません。法改正の詳細については、3章で解説します。

2、グルーミングの手口の具体例

グルーミングを行う大人は、子どもに対してさまざまな方法によって接近し、信頼関係を築こうと試みます。ここからは、グルーミングの具体的な手口を確認していきましょう。

  1. (1)SNSを通じて、子どもの信頼を得てから性的行為に及ぶ

    TwitterやInstagram、TikTokなどのSNSでは、小・中学生や高校生でも、誰でも簡単にアカウントを開設することができます。

    これらのSNSのメッセージ機能を通じて学生にアプローチし、やり取りする中で子どもの信頼を得ることは、グルーミングをする大人の常套手段です。
    ある程度子どもの信頼を得た段階で、実際に会うことを提案して、言葉巧みに性交渉などへと誘う手口があることに注意しましょう。

  2. (2)元々近い関係にある者が、徐々にボディタッチからエスカレートさせる

    子どもと元々近い関係性にあった大人が、子どもからの信頼を悪用して性的接触を画策するグルーミングもしばしば見られます。
    たとえば学校の教員や家庭教師、習い事の先生、保育士などは、仕事の中で子どもの信頼を得やすい職業の代表例です。

    こうした立場にある者が、たとえば勉強を教える中で、リラックスさせるためと称して肩をもむなど、軽いボディタッチを行います。軽いボディタッチから入るのは、子どもが断りにくいようにするためです。

    その後、徐々に子どもへの言動をエスカレートさせていき、最終的にはわいせつ行為や性交渉に及ぶグルーミングの手口が報告されています。

  3. (3)公園などで子どもに声をかけて、徐々に親しくなる

    公園などで遊ぶ子どもに声をかけて接近するのも、グルーミングの古典的手口としていまだに散見されます。

    悩みなどの相談に乗るふりをして子どもと親しくなり、自宅へ連れ込んでわいせつ行為や性交渉などを迫るグルーミングには要注意です。

3、未成年者に対する性犯罪|検挙状況と法的責任

未成年者に対する性犯罪は、毎年かなりの件数が検挙に至っているのが実情です。
性犯罪の内容によっては、加害者に重い刑罰が科される可能性があります。また被害者は、加害者に対して不法行為に基づく損害賠償(慰謝料)を請求することが可能です。

  1. (1)未成年者に対する性犯罪の検挙状況

    令和4年中の未成年者に対する主な性犯罪の検挙状況は、以下のとおりです。

    <児童買春事犯等の検挙件数>
    児童買春(児童買春・児童ポルノ禁止法違反) 630件
    淫行させる行為(児童福祉法違反) 90件
    みだらな性行為等(青少年保護育成条例違反) 1486件
    合計検挙件数 2206件

    <児童ポルノ事犯の検挙件数>
    児童ポルノの製造 1692件
    児童ポルノの提供・公然陳列 838件
    児童ポルノの所持等 595件
    合計検挙件数 3035件


    出典:「令和4年における少年非行、児童虐待及び子供の性被害の状況」(警察庁生活安全局少年課)

  2. (2)未成年者を被害者とする重大な性犯罪|不同意わいせつ罪と不同意性交等罪

    グルーミングのあとで行われる性犯罪として、もっとも警戒すべきなのは「不同意わいせつ罪」と「不同意性交等罪」です。令和5年7月13日の刑法改正前までは、それぞれ「強制わいせつ罪」「強制性交等罪」と呼ばれていました。

    不同意わいせつ罪(刑法第176条)は、暴行または脅迫があったり、アルコールや薬物の影響があったりするような、わいせつ行為(キスやハグ、陰部の押し付けなど)に同意しない意思を形成、表明、もしくは全うすることが困難な状態となった被害者に対して、わいせつな行為をした場合に成立します。
    また、被害者が16歳未満の場合には、暴行または脅迫などがあったか否かにかかわらず、わいせつな行為をした時点で直ちに不同意わいせつ罪が成立します。

    不同意わいせつ罪の法定刑は「6か月以上10年以下の懲役」です。

    不同意性交等罪(刑法第177条)は、暴行または脅迫があったり、アルコールや薬物の影響があったりするような、性交等に同意しない意思を形成、表明、もしくは全うすることが困難な状態となった被害者に対して、性交・肛門性交・口腔(こうくう)性交、または膣や肛門に陰茎以外の身体の一部や物を挿入する行為でわいせつなもののいずれかをした場合に成立します。
    また、被害者が16歳未満の場合には、暴行または脅迫などがあったか否かにかかわらず、性交・肛門性交・口腔(こうくう)性交、または膣や肛門に陰茎以外の身体の一部や物を挿入する行為でわいせつなもののいずれかが行われた時点で強制性交等罪が成立します。

    不同意性交等罪の法定刑は「5年以上(20年以下)の有期懲役」です。

    なお、刑法改正前までに行われたことは、刑法改正前の法律(強制わいせつ罪・強制性交等罪)に則って裁かれる点にご留意ください。

    それ以外には、18歳未満の者に対してみだりに性的行為をする「青少年保護育成条例違反」や、18歳未満の者の性的な画像や動画を頒布・製造・所持等する「児童買春・児童ポルノ禁止法違反」がよく問題となります。

  3. (3)16歳未満の子どもに対する「面会要求等に対する罪」が新設

    令和5年7月13日の刑法改正により、16歳未満の子どもにわいせつ目的で面会要求等を行うことに対しても処罰がくだるようになりました。

    面会要求等の罪については、威迫、偽計または誘惑したり、拒否されたのに繰り返し会うことを求めたり、金銭やお金を与えることを約束したりすることで成立します。
    このように会うことを求めるだけでも1年以下の懲役または50万円以下の罰金に科され、また、実際に会うことにより、2年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されます。

    つまり、グルーミング行為そのものが犯罪になる「可能性がある」ということです。

    また、性交等を行っていたり、性的部位を露出していたりする写真や動画を求めることでも、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科されることとなりました。

  4. (4)性犯罪は不法行為にも該当|損害賠償請求の対象になる

    性犯罪にあたる行為は、被害者に対する不法行為にも該当します(民法第709条)。

    したがって、性犯罪の被害を受けてしまった方は、加害者に対して損害賠償(慰謝料など)を請求することが可能です。
    加害者に対する損害賠償請求の方法などについては、弁護士までご相談ください。

4、子どもをグルーミングや性被害から守るためにできること

親としては、子どもがグルーミングや性犯罪を受けていることにいち早く気づき、必要に応じて行政や警察のサポートを得ながら対応することが求められます。性犯罪の被害から守るために、できることを確認しておきましょう。

  1. (1)普段から子どもとコミュニケーションを取る

    子どもに対するグルーミングや性犯罪を察知するには、普段から子どもとコミュニケーションを取ることが非常に大切です。

    その中で、子どもの身体に何らかの外傷がないか、性的な事柄に関する話題へ敏感に反応するようになっていないかなど、子どもに生じた変化を敏感に察知するよう努めましょう。
    少しでも違和感があれば、子どもの味方として相談に乗る、あるいは後述する相談窓口へ連絡するなどの対応を取ってください。

  2. (2)安易に人に付いていかないように教える

    グルーミングの手口を解説したとおり、公園などで親しくなったあとに、性犯罪をもくろんで自宅へ連れ込もうとする大人もいます。

    知らない人から声をかけられたときには、すぐに信用せず警戒をし、「家に来ないか」「車に乗らないか」などと言って誘われたときには、安易に付いていかないように教えるようにしましょう。
    腕を引っ張られたり、連れ去られそうになったり、怖いと感じたら大きな声を出すなど、周りに助けを求めるように教えてあげることも大切です。

  3. (3)相談窓口へ連絡する

    子どもが受けたグルーミングや性被害については、以下のような窓口で相談を受け付けています。

    • 子どもの人権110番
    • 行政が展開する匿名無料相談サービスです。子どもでも大人でも、電話やメールなどで法務局職員あるいは人権擁護委員に相談することができます。

    • ぴったり相談窓口
    • 警視庁が開設する、子どもの性被害等を相談できる窓口を案内してくれるウェブサイトです。質問に答えていくだけで、相談内容や希望に沿った問い合わせ先を教えてくれます。

    • 各都道府県の警察署
    • 各都道府県警察にも相談窓口が設置されており、電話で子どもの性犯罪被害を相談することが可能です。全国共通番号(#8891)も運用されています。

    • 各都道府県の法律事務所
    • 性被害に関する法律相談をすることが可能です。子どもを被害者とするグルーミングや性被害については、刑事告訴や損害賠償請求などを通じて、弁護士が協力できる点があります。


    子どもがグルーミングや性被害に遭っている疑いがある場合や、子どもからこれらの被害について相談を受けた場合には、お早めに上記いずれかの窓口へご相談ください。
    被害からの立ち直りに向けて、迅速に手厚いサポートを受けることができるでしょう。

5、まとめ

大人が親切なふりをして子どもに接近するグルーミングは、最終的に性暴力に及ぶことを目的としているケースが少なくありません。子どもたちをグルーミングや性被害から守るためには、自分だけで抱え込むのではなく、お早めに行政の窓口などへご相談ください。

ベリーベスト法律事務所でも、子どもの性被害等に関する法律相談を随時受け付けております。
子どもへの性被害について、加害者に対する刑事告訴や損害賠償請求をご検討中の方や、行政の窓口で弁護士への相談を勧められた方は、ベリーベスト法律事務所 和歌山オフィスまでご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています