専業主婦が別居するときの婚姻費用(生活費)とは? 請求方法と相場
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和歌山県が公表している人口動態統計の概況によると、令和3年の和歌山県内での離婚件数は、1442組でした。
夫と離婚するために別居をしようと考えている方の中には、経済的な不安から一歩踏み切れない方も少なくないでしょう。特に、専業主婦の方だと別居中の生活費(婚姻費用)をもらえるかどうかが重要な問題となります。もし別居した場合、生活費はどのように請求すればよいのでしょうか。また、専業主婦の場合、請求できる生活費の相場はどれくらいなのでしょうか。
今回は、専業主婦が別居するときの生活費について、ベリーベスト法律事務所 和歌山オフィスの弁護士が解説します。
1、専業主婦が別居するときの生活費(婚姻費用)
婚姻費用とは、夫婦が婚姻生活を維持するために必要となる費用をいいます。
たとえ別居をしていたとしても離婚するまでは夫婦であることに変わりありませんので、夫婦のうち収入の低いほうは、「婚姻費用」いわゆる生活費を請求することができます。
特に、専業主婦の方が別居をする場合には、安定した収入がありませんので、婚姻費用を支払ってもらえるかが非常に重要になります。別居中の経済的な不安を少しでも解消するためにも、しっかりと婚姻費用を請求する準備をしておきましょう。
2、専業主婦が受け取れる生活費(婚姻費用)の相場
別居中の生活費(婚姻費用)はどのような方法で取り決めるのでしょうか。また、専業主婦はどの程度の生活費を受け取ることができるのでしょうか。
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(1)別居中の生活費(婚姻費用)の金額の決め方
婚姻費用を決める方法には、以下の3つの方法があります。
① 夫婦の話し合い
別居中の生活費の金額は、まずは夫婦の話し合いにより取り決めを行います。婚姻費用の金額には、法律上の決まりはありませんので、夫婦が合意できればどのような金額であっても問題ありません。
② 婚姻費用分担請求調停
夫婦の話し合いで婚姻費用が決まらない場合には、家庭裁判所に婚姻費用分担請求調停の申し立てを行います。調停では、裁判官1人と調停委員2人で構成される調停委員会により、婚姻費用の合意を目指した話し合いが進められていきます。夫婦だけで話し合いをするよりも第三者が関与することでスムーズな取り決めが期待できるでしょう。
③ 審判
調停は、双方の合意がなければ成立することはありません。婚姻費用の金額に関してどちらか一方の合意が得られないときは、調停は不成立になり、自動的に審判という手続きに移行します。審判では、一切の事情を考慮して裁判官が婚姻費用の金額を定めます。 -
(2)別居中の生活費(婚姻費用)の相場
別居中の生活費は、基本的には夫婦の合意があればどのような金額でも定めることができます。しかし、相場から著しく離れた金額を要求しても、相手の合意を得るのは難しいでしょう。
そのため、一般的には、裁判所が公表している婚姻費用算定表というものを利用して、婚姻費用の金額の取り決めが行われています。これは、家庭裁判所の調停や審判でも利用されているものですので、これを利用することで一般的な相場を把握することができます。
たとえば、夫の年収が600万円、妻が専業主婦(収入は0)、0~14歳までの子どもが1人いるケースだと、婚姻費用の相場は、12~14万円になります。
婚姻費用算定表からわかる相場は、上記のように幅のある金額になりますので、夫婦の話し合いにより上限および下限の範囲内で婚姻費用の金額を決めていきます。
3、別居中の専業主婦が働き出したら生活費(婚姻費用)は減額される?
別居中の専業主婦が働き出した場合、生活費(婚姻費用)は減額されるのでしょうか。
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(1)専業主婦が働き出したとしても直ちに減額されることはない
別居中の夫から婚姻費用をもらうことができたとしても、それだけでは生活していくお金としては十分とはいえません。そのため、夫と同居中は専業主婦であった人も別居をきっかけに仕事を探して、収入を得るケースも少なくありません。
婚姻費用の金額は、双方の収入に応じて決められますので、専業主婦が働き出した場合には、婚姻費用を減額しなければならないと考える方もいると思います。
しかし、専業主婦が働き出して収入を得たとしてもそれだけで直ちに婚姻費用を減額する必要はありません。夫からは、「働き出したのなら婚姻費用を減額したい」といわれたとしても、すぐに減額に合意せず生活費としても必要な旨を伝えましょう。 -
(2)夫から婚姻費用の減額調停を申し立てられた場合には減額される可能性がある
上記のように当事者の合意がなければ、原則として当初定めた婚姻費用を減額されることはありません。しかし、夫から婚姻費用の減額調停を申し立てられた場合には注意が必要です。
婚姻費用減額調停は、話し合いの手続きですので、合意が得られなければ調停は不成立になります。しかし、調停が不成立になると自動的に審判の手続きに移行して、裁判所が婚姻費用の減額の可否および減額後の婚姻費用の金額を判断します。
審判でも婚姻費用算定表が利用されますので、専業主婦が働き出して収入を得ている場合には、当初の取り決めをした時点から事情変更があったとして、婚姻費用の減額が認められる可能性もあります。
4、夫が別居中の生活費(婚姻費用)を支払わない場合の対処法
夫が別居中の生活費(婚姻費用)を支払わない場合には、以下のような対処法が考えられます。
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(1)婚姻費用分担請求調停の申立て
夫が別居中の生活費を支払ってくれないという場合には、婚姻費用分担請求調停の申し立てが必要です。
調停では、調停委員から夫に対して、婚姻費用の支払いは義務であること、および相場となる婚姻費用の支払いに応じるよう説得がなされます。しかし、調停で夫が婚姻費用の支払いに応じない場合は調停不成立となり、自動的に審判に移行して、裁判所が適切な婚姻費用の金額を定めます。
なお、別居時に夫婦間で婚姻費用の支払いの合意をして、それを合意書に残していたとしても公正証書化していなければ、調停の申し立てが必要になります。 -
(2)履行勧告や履行命令
家庭裁判所の調停、または審判により婚姻費用の金額が定められたにもかかわらず、夫が任意に支払いに応じない場合には、家庭裁判所の履行勧告または履行命令という制度を利用して支払いを求めることができます。
① 履行勧告とは
取り決めどおりの婚姻費用の支払いがない場合に、家庭裁判所から相手に対して、支払いを促してもらえる制度です。履行勧告には、相手に支払いを強制する効力はありませんが、裁判所から連絡が行きますので心理的な圧力を与えることができます。
② 履行命令とは
履行勧告でも支払いがない場合に、家庭裁判所が相手に対して、婚姻費用の支払いを命じてくれる制度です。正当な理由なく履行命令に従わない場合には、過料の制裁に処せられますので、履行勧告よりも効果が期待できます。 -
(3)強制執行の申立て
上記の手段によっても夫が婚姻費用の支払いに応じない場合には、最終的に裁判所に強制執行の申立てを行います。
強制執行の申立てをするためには、以下のような債務名義が必要になります。- 執行認諾文言付き公正証書
- 調停調書
- 審判書
強制執行の申立てをすることにより、相手の財産を差し押さえることができます。差し押さえる財産としては、給料や預貯金などがありますが、給料の差し押さえをする方がより効果的でしょう。
給料の差し押さえであれば、一度の差し押さえで将来分についても差し押さえができますので、今後も婚姻費用の未払いが続くようであれば継続的に夫の給料から支払いを受けることができます。
5、まとめ
婚姻している夫婦は、互いに生活を支え合う義務があります。離婚を前提として別居をしていたとしても、夫婦であることには変わりありませんので、夫は、専業主婦である妻に対して、生活費の支払いを行わなければなりません。
しかし、生活費の支払いが法的義務であるにもかかわらず、生活費の支払いに応じてくれないケースもあります。そのような場合でも、調停や審判の手続きにより債務名義を取得すれば、強制執行により相手の財産から強制的に未払いの婚姻費用を回収することができます。
法的手続きにより生活費を請求する際には、実績のある弁護士のサポートが重要となります。まずは、ベリーベスト法律事務所 和歌山オフィスまでお気軽にご相談ください。離婚トラブルの解決実績がある弁護士が丁寧にお話を伺います。
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