婚姻費用は過去に遡って請求できる? 請求できるのはいつから?
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和歌山市役所が公開する「令和3年版 統計資料」によると、令和2年における和歌山市の婚姻件数は1597件、離婚件数は586件でした。
婚姻中に配偶者と別居しているとき、ご自身の収入が配偶者よりも少ない場合は、婚姻費用の支払いを請求できます。
婚姻費用は、過去の分でも請求できる余地がありますが、請求時以降の婚姻費用しか精算が認められないケースも多いです。弁護士に相談したうえで、早めに婚姻費用の請求を行いましょう。
今回は、婚姻費用を過去分に遡って請求できるかどうかの可否や、請求時の注意点・手続きなどについて、ベリーベスト法律事務所 和歌山オフィスの弁護士が解説します。
1、婚姻費用は、過去に遡って請求できる?
婚姻費用とは、婚姻関係を続けるにあたり、生活費などの必要となる費用です。
夫婦は、資産・収入等に応じて婚姻費用を分担する義務を負っています(民法第760条)。
同居している夫婦の場合は、生活する中で適宜婚姻費用を分担して支払うことが可能です。
これに対して、別居している夫婦の場合は、収入の少ない側が多い側に対して、婚姻費用として金銭の支払いを請求できます(=婚姻費用分担請求権)。
婚姻費用の請求は、判例上は過去分についても認められる余地がありますが、実際には請求時以降の婚姻費用しか認められないケースが多いので注意が必要です。
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(1)判例上は、過去分の婚姻費用の請求も認められる可能性あり
最高裁の判例では、家庭裁判所が婚姻費用の分担額を決定するにあたり、「過去に遡ってその額を形成決定することが許されない理由はない」と判示されています(最高裁昭和40年6月30日決定)。
その理由として、最高裁は、婚姻費用が夫婦の資産・収入やその他一切の事情を考慮して、家庭裁判所が後見的立場から、裁量権を行使して決定するものであることを挙げています。
したがって、婚姻費用を過去に遡って請求することも、一切認められないわけではないというのが判例の立場です。 -
(2)実務上は、請求時以降の婚姻費用しか認められないことが多い
ただし実務上は、婚姻費用の精算は、権利者(請求をした側)から義務者(請求をされた側)に対して請求を行った時点以降の分しか認められないケースが多いです。
東京家裁平成27年8月13日審判の事案では、「内容証明郵便による請求がなされた時点が、婚姻費用の始期である」と認定されています。
よって、実際に別居したのがもっと早い時期であったとしても、婚姻費用の精算は請求時以降の分に限られる可能性が高い点に注意が必要です。
2、できるだけ多くの婚姻費用を請求したい場合の注意点
収入の多い別居中の配偶者に対して、できる限り多くの婚姻費用を請求したい場合には、特に以下の2点に注意して対応することが大切です。
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(1)婚姻費用は原則として請求時以降|できる限り早めの請求を
前述のとおり、婚姻費用は実務上、請求時以降の分しか精算が認められないケースが多いです。
できるだけ多くの婚姻費用を獲得したいと考えている場合には、とにかく早い段階で婚姻費用の請求を行うように努めましょう。 -
(2)内容証明郵便など、証拠が残る形で請求を行う
もし婚姻費用の精算が家庭裁判所の調停・審判や離婚訴訟で争われた場合、婚姻費用の請求がいつの時点で行われたのかが重要なポイントになります。
権利者としては、請求を行った時点を証明できるように、記録が残る形で婚姻費用の請求を行うべきです。
簡易的に利用できる請求方法としては、内容証明郵便によって請求書を送付することが考えられます。
3、配偶者に婚姻費用を請求するための手続き
婚姻費用の請求は、配偶者側の対応によって手続きの種類が変わるほか、それぞれの手続きでは専門的な対応が求められるので、弁護士への相談をおすすめいたします。配偶者に対して婚姻費用を請求するための手続きは、以下のとおりです。
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(1)内容証明郵便による請求・金額等についての協議
婚姻費用を請求する第一段階としては、まず配偶者に対して内容証明郵便を送付するのが一般的です。
安価・簡易に送付できるほか、郵便局によって日付・差出人・宛先・内容が証明されるので、婚姻費用の請求を行った証拠としても用いることができます。
内容証明郵便による請求に対して、配偶者から何らかの返答があった場合は、婚姻費用の金額や支払方法などについて協議を行いましょう。
なお婚姻費用の金額については、裁判所が公表している婚姻費用算定表が参考になります。
参考:「養育費・婚姻費用算定表」(裁判所) -
(2)家庭裁判所の調停・審判
婚姻費用の支払いに関する協議がまとまらない場合には、家庭裁判所へ家事調停を申し立てます。
家事調停とは、家庭裁判所で行われる話し合いの手続きです。調停委員の仲介によって、夫婦間の合意を目指します。
離婚に関する話し合いとは別に婚姻費用を請求する場合には、婚姻費用分担請求調停を申し立てましょう。この場合、調停ではもっぱら婚姻費用に関する事項が話し合われます。
婚姻費用分担請求調停が不成立となれば、家庭裁判所が審判を行い、婚姻費用の分担額などを決定します。
参考:「婚姻費用の分担請求調停」(裁判所)
これに対して、離婚に関する話し合いの一環として婚姻費用を請求する場合には、離婚調停を申し立てなければなりません。
離婚調停では、婚姻費用に加えて財産分与・慰謝料・親権・養育費など、離婚に関するさまざまな事項が話し合われます。
離婚調停が不成立となった場合は、婚姻費用分担請求調停とは異なり、一部の例外を除いて審判は行われません。(したがって、婚姻費用について家庭裁判所の審判を希望する場合には、離婚調停と婚姻費用分担請求調停の両方を申し立てておくことが必要となります。)
そして、引き続き離婚について争う場合は、離婚訴訟を提起する必要があります。
婚姻費用に関する調停・審判の手続きにおいて重要なのは、調停委員や裁判官に対して、ご自身の主張を説得的にアピールすることです。
弁護士に相談しながら、どのような方針で調停・審判に臨むかを入念に検討することをおすすめいたします。 -
(3)離婚訴訟
離婚訴訟は、原告が判決による離婚を求める手続きです。原則として、裁判所の公開法廷において行われます。
離婚訴訟において、もし離婚を認める判決が言い渡される場合には、併せて婚姻費用などの離婚条件についても、判決主文の中で明示されます。
原告が離婚を認める判決を得るには、法定離婚事由の存在を立証しなければなりません(民法第770条第1項)。
また、適正な金額の婚姻費用を認めてもらうには、夫婦の収入バランスなどの事情について、証拠に基づく立証を行うことが求められます。
離婚訴訟は専門性の高い手続きであるため、弁護士への相談がおすすめです。 -
(4)履行勧告・履行命令
家庭裁判所の調停または審判によって確定した婚姻費用の支払いが行われない場合、権利者は家庭裁判所に対して「履行勧告」または「履行命令」を申し立てることができます。
① 履行勧告(家事事件手続法第289条)
家庭裁判所が義務者に対して、婚姻費用を支払うように勧告します。
履行勧告に違反しても、罰則はありません。
② 履行命令(同法第290条)
家庭裁判所が義務者から事情を聴いたうえで、義務者に対して婚姻費用を支払うように命じます。
履行命令に違反した場合は、「10万円以下の過料」に処されます。
配偶者にプレッシャーを与えて婚姻費用を促したい場合は、家庭裁判所からの連絡により、履行勧告や履行命令の申し立てを行うことも選択肢のひとつです。
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(5)強制執行
婚姻費用の支払いに関して、権利者が以下に挙げる債務名義を保有している場合は、裁判所に強制執行を申し立てることができます(民事執行法第22条)。
<債務名義の例>- 確定判決
- 仮執行宣言付判決
- 仮執行宣言付支払督促
- 強制執行認諾文言付公正証書(執行証書)
- 和解調書
- 調停調書
- 審判書
預貯金口座や勤務先に対する給与債権など、配偶者の財産を特定して強制執行を申し立てれば、その財産について差し押さえが行われます。
権利者は、差し押さえられた配偶者の財産から、婚姻費用の支払いを受けることが可能です。
スムーズに強制執行を申し立てるためには、弁護士のサポートを受けるとよいでしょう。
4、婚姻費用など、離婚に関するトラブルは弁護士にご相談を
配偶者と離婚する際には、さまざまな離婚条件を話し合わなければなりません。
後のトラブルを防止するために留意しなければならないポイントも多いので、弁護士へのご相談をおすすめいたします。
弁護士は、ご家庭のご事情やご要望に応じて、よりよい条件で離婚を成立させられるようにサポートすることが可能です。配偶者との協議や法的手続きへの対応は、弁護士が一括して代行いたしますので、精神的な負担も軽減されます。
配偶者との離婚をご検討中の方は、お早めに弁護士までご相談ください。
5、まとめ
婚姻費用の精算が認められるのは、請求を行った時点以降の分に限られるケースが多いです。そのため、早い段階で弁護士にご相談のうえで、できる限り早期に婚姻費用の請求を行いましょう。
ベリーベスト法律事務所は、婚姻費用の請求を含めて、離婚に関するご相談を随時受け付けております。
配偶者と別居しており、婚姻費用の支払いを求めたい方は、お早めにベリーベスト法律事務所 和歌山オフィスまでご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています