内縁関係の解消時、財産分与はできる? 流れや注意点とは
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和歌山市が公表する「統計資料」によると、令和4年における市内での婚姻件数は1500件で、離婚件数は579件でした。
内縁の解消は離婚件数にはふくまれませんが、解消する際には、法律上の婚姻関係を解消する場合(=離婚)と同様に、パートナーに対して財産分与を請求できます。ただし、内縁を証明する必要や対象外となる財産もあるため、弁護士に相談して、財産分与請求の準備を整えることが重要です。
本記事では内縁解消時の財産分与請求について、ベリーベスト法律事務所 和歌山オフィスの弁護士が解説します。
1、内縁関係を解消する際、財産分与は請求できる?
内縁関係を解消する際には、法律婚の夫婦が離婚する場合と同様に、財産分与を請求できると解されています。
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(1)内縁とは
「内縁」とは、婚姻届を提出していないものの、男女が協力して夫婦としての生活を営んでいる状態を意味します。「事実婚」とも呼ばれます。
内縁が成立するためには、以下の要件をすべて満たすことが必要です。- ① 互いに(実質的な意味で)婚姻の意思を有していること
- ② 法律婚の夫婦と同等の共同生活を営んでいること
- ③ 社会的に夫婦と認められていること
③の「社会的に認められている」とは、長年同棲していて、周囲の人々や親族にもお互いを夫婦として紹介している場合が該当すると考えられます。
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(2)内縁解消時には、離婚時と同様に財産分与を請求可能
内縁を解消する際には、法律婚の夫婦が離婚する場合と同様に、財産分与を請求できます(広島高裁昭和38年6月19日決定)。
婚姻届を提出していないだけで、実態としては法律婚の夫婦と同じなので、財産の公平な分配などの財産分与の趣旨が当てはまるからです。
財産分与に関するルールは、内縁解消の場合においても、法律婚の夫婦が離婚する場合と同様のルールが適用されます。 -
(3)内縁のパートナーが死亡した場合、遺産は相続できない
当事者の意思で内縁を解消する場合とは異なり、内縁のパートナーが死亡した場合には、残された側はパートナーの遺産について相続権を有しないと解されています(最高裁平成12年3月10日決定 )。
したがって原則として、死亡した内縁パートナーの遺産を相続することはできません。
ただし、内縁パートナーが遺言書を残しており、その中で自分に対する遺贈が明記されていた場合には、遺言書の内容に従って遺産を相続することができます(民法第964条)。
また、死亡した内縁パートナーに相続人がいない場合は、特別縁故者に対する財産分与を請求できる余地があります(民法第958条の2)。
2、内縁解消時の財産分与の対象となる財産
財産分与の対象となる財産と、そうでない財産がどのように区別されるのか、その判断基準を解説します。
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(1)内縁期間中に取得した財産・負担した債務が財産分与の対象
内縁解消時における財産分与の対象となるのは、内縁期間中にパートナーのいずれかが取得した財産です。
内縁期間中に取得した財産は、種類やどちらの名義で取得したかを問わず、原則として財産分与の対象になります(第762条第2項)。
たとえば、主に男性側が収入を得ており、女性側は専業主婦として男性を支えていた場合には、男性が内縁期間中に得た収入につき、女性に対して財産分与を行う義務を負います。
財産分与の対象としては以下の例が挙げられますが、これらに限らず、幅広い財産が財産分与の対象です。- 現金
- 預貯金
- 不動産(土地、建物)
- 自動車
- 有価証券(株式、投資信託など)
また財産だけでなく、内縁期間中に負担した債務も、どちらの名義で負担したかを問わず、原則として財産分与の対象となります。
特に、内縁期間中に持ち家を購入した場合には、家とともに住宅ローンの財産分与(分担)が問題となるケースが多いです。 -
(2)内縁成立前に取得した財産は対象外
内縁成立前に取得した財産は、共有財産ではなく「特有財産」に当たるため、財産分与の対象外です(民法第762条第1項)。
ただし法律婚とは異なり、内縁は開始の時期が必ずしも明確でないため、特有財産と共有財産を分ける時期が争われるケースがよく見られます。 -
(3)相続・贈与によって取得した財産も対象外
内縁期間中に取得した財産であっても、相続や贈与によって取得したものは特有財産に当たるため、財産分与の対象外となります(民法第762条第1項)。
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(4)ギャンブルなどによって負った債務は対象外
内縁期間中に負担した債務であっても、ギャンブルに依存したなど、いずれか一方の責任で負担した個人的債務については、財産分与の対象外になると考えられます。
ギャンブルなどによって勝手に負担した債務を、内縁解消時にパートナーにも負担させることは、財産の公平な分配という財産分与の趣旨に反するためです。
3、内縁解消時に財産分与を請求する手続き
内縁解消時の財産分与は、まずパートナー同士で直接協議するのが一般的です。協議がまとまらなければ、家庭裁判所の調停・審判手続きを利用しましょう。
協議・調停・審判で財産分与の方法が決まったら、その内容に従って名義変更手続きを行います。
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(1)パートナーとの協議
財産分与に関する協議では、主に以下の内容を話し合って取り決めましょう。
- どの財産をどちらが取得するか
- 債務をどのように分担するか
- 不動産の分割方法(現物分割、代償分割、換価分割など)
- 後から共有財産の存在が判明したらどうするか
協議を通じて合意が得られたら、その内容をまとめた合意書を作成・締結しましょう。
財産分与以外の内縁解消条件(慰謝料・婚姻費用・子どもの養育費など)を取り決めた場合は、その条件も合意書に記載しましょう。 -
(2)内縁関係調整調停
内縁解消に関する協議がまとまらないときは、家庭裁判所に「内縁関係調整調停」を申し立てましょう。
参考:「内縁関係調整調停」(裁判所)
内縁関係調整調停は、中立である調停委員の仲介により、内縁関係の解消に関する合意を目指す手続きです。財産分与などの条件についても、内縁関係調整調停において話し合うことができます。
内縁関係調整調停がまとまれば、合意内容が記載された調停調書が作成されます。もし相手が調停調書に従った財産分与を行わない場合は、裁判所に強制執行を申し立てることが可能です。 -
(3)財産分与請求調停・審判
内縁を解消した後で財産分与を請求する場合は、家庭裁判所に「財産分与請求調停」を申し立てることができます。
参考:「財産分与請求調停」(裁判所)
財産分与請求調停は、離婚または内縁解消後の財産分与に焦点を絞った調停手続きです。内縁関係調整調停と同様に、中立である調停委員が合意形成を仲介します。
財産分与請求調停がまとまれば調停調書が作成されます。財産分与請求調停がまとまらないときは、家庭裁判所が審判を行い、財産分与に関する判断・結論を示します。
相手方が調停や確定した審判の内容に従わないときは、強制執行を申し立てることができます。 -
(4)財産の名義変更
協議・調停・審判で決まった内容に従い、財産分与の対象財産について名義変更を行います。名義変更が必要となる主な財産は、不動産や自動車などです。
名義変更手続きの際には、内縁関係を証明する書類の提出を求められることがあります。
一例として、以下のような書類を内縁関係の証明に用いることができますので、準備しておきましょう。- 賃貸借契約書
- 健康保険証(扶養関係が分かるもの)
- 住民票(一緒に住んでいることが分かるもの)
- 結婚式を行ったことが分かる写真
- 家計簿
- 内縁契約書
4、内縁解消時の財産分与に関する注意点
内縁解消時に財産分与を行う際、注意すべきポイントを解説します。
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(1)調停・審判による財産分与請求の期限は、内縁解消後2年以内
内縁解消後に、家庭裁判所へ財産分与請求調停・審判を申し立てることができるのは、内縁解消後2年以内に限られます(民法第768条第2項但し書き)。
財産分与請求の期限が経過しないように、早い段階で弁護士へご相談ください。 -
(2)財産分与について合意したら、公正証書を作成すべき
内縁解消時の財産分与などを定めた合意書は、公正証書で作成するのが安心です。
公正証書を作成すれば、合意内容が明確化されてトラブル予防につながります。さらに、相手が財産分与などを支払わない場合には、直ちに強制執行を申し立てることができます(民事執行法第22条第5号)。
弁護士にご依頼いただければ、内縁解消時の財産分与に関する公正証書の作成を全面的にサポートすることが可能です。
5、まとめ
内縁関係を解消する際には、パートナーに対して財産分与を請求できます。弁護士にご相談いただければ、適切な財産分与の方法についてアドバイスするとともに、パートナーとの交渉や調停・審判の手続きについても、代理人として適切にご対応します。
ベリーベスト法律事務所 和歌山オフィスでは、内縁解消や財産分与に関するご相談を随時受け付けております。お一人で悩まず、まずはお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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