養育費を一括で受け取ることはできる? メリット・デメリットや追加請求

2022年09月15日
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養育費を一括で受け取ることはできる? メリット・デメリットや追加請求

裁判所が公表する司法統計によると、令和2年度に和歌山家庭裁判所に申し立てがあった養育費請求の調停事件数は、134件でした。家庭裁判所の調停は、当事者間で解決できない問題が持ち込まれることから、一定数の夫婦が養育費の問題を解決できずに、裁判所の手続きを利用していたことがわかります。

子どもがいる夫婦の場合には、親権者をどちらにするかという問題以外にも、子どもの養育費について決めなければなりません。子どもの養育費については、毎月の支払いが基本です。しかし、長期間にわたる支払いとなるため、「将来支払ってもらえなくなるのではないか」と不安を抱いている方もいるでしょう。その中には、養育費を一括払いしてくれないかと考えている方もいるかもしれません。

そもそも、養育費を一括で受け取ること自体、可能なのでしょうか。また、養育費を一括払いで振り込んでもらう際には、どのような点に注意する必要があるのでしょうか。今回は、養育費を一括で受け取ることのメリット・デメリットや注意点などについて、ベリーベスト法律事務所 和歌山オフィスの弁護士が解説します。

1、養育費を一括で請求することは可能?

養育費をまとめて一括で請求できるとしたら、どのようなケースなのでしょうか?以下では、養育費の支払方法に関する原則と例外について説明します。

  1. (1)養育費は毎月払いが原則

    養育費とは、子どもの生活や教育に必要となる資金のことをいい、離婚にあたって子どもを監護しない非監護親から監護親に対して支払われる費用です。

    このような養育費は、日々子どもを育てるために無くてはならない金銭であり、また、子どもが独立して生活できるようになるまで必要になるお金です。そのため、支払総額も高額で一括払いの対応が難しく、定期的な支払いが必要となる性質のものといえます。

    このような側面から、養育費は一括払いではなく、毎月払いが原則です。将来の養育費の支払いに不安や心配などがあったとしても、養育費を一括で支払ってもらう、ということは基本的にできません。

  2. (2)お互いの合意があれば一括払いも可能

    前述のとおり、養育費の支払いは毎月払いが原則です。しかし例外的に、当事者双方の合意があれば、一括払いという支払方法も可能となります。

    養育費の取り決めは、当事者間で自由に行うことができ、養育費の金額、支払いの始期・終期だけでなく、支払方法も当事者が決められます。そのため、お互いに養育費の一括払いという方法で合意しているケースでは、養育費を一括で受け取ることも可能です。

2、養育費を一括払いするメリット・デメリット

養育費を一括払いで受け取ることによって、メリットとデメリットが生じます。そのため、以下のようなメリットとデメリットがあるということを理解したうえで、慎重に検討・対応するようにしましょう。

  1. (1)養育費の一括払いのメリット

    養育費の受け取りを一括にすることによって、3つのメリットが享受できます。

    ① 養育費滞納のリスクがなくなる
    離婚時にきちんと養育費の取り決めをしたとしても、その後、養育費の支払いが滞るという事態が生じることがあります。

    養育費は、子どもの衣食住を賄う費用として、また、年齢に応じた教育を受けさせるためにも必要となる費用です。そのため、養育費の滞納が生じてしまうと、生活に支障が生じてしまう可能性が考えられます。

    このような養育費滞納のリスクを回避するためには、離婚する際に一括で養育費をもらうという方法が確実です。

    ② 配偶者との関係を絶つことができる
    養育費の支払いを毎月払いとした場合には、月ごとに養育費の振り込みがされているかどうかを確認しなければなりません。もし支払いがされていない場合には、元配偶者に対して支払催促の連絡をする必要があります。

    離婚理由によっては、元配偶者との関係を絶ちたいと考えている方もいるでしょう。養育費の支払いが毎月払いだと、上記のように、定期的に元配偶者と連絡を取り合わなければならなくなる可能性が生じます。

    養育費を一括で受け取ることで、上記のような振り込みの確認や催促の連絡は不要となる点もメリットのひとつです。

    ③ 離婚後の生活で気持ちの余裕ができる
    養育費の一括払いを元配偶者から受けることによって、まとまったお金が入ってきます。そうすると、金銭面で不安に思っていた気持ちに余裕ができ、精神的にゆとりを持つことが可能です。
    子どもを育てていくうえでは、気持ちに余裕があることは重要です。子どものことを考えて引っ越しをしたり、物をそろえていったりすることもできるでしょう。

    ただし、養育費の一括払いを受けたからといって、総額が増えるというわけではありませんので、計画的に使っていくことが大切です。

  2. (2)養育費の一括払いのデメリット

    養育費の支払いを一括で受け取ることによって、以下のような2つのデメリットが生じます。

    ① 養育費の総額が減る可能性がある
    養育費を一括払いで受け取る場合には、一般的に中間利息の控除が行われます。
    中間利息の控除とは、将来受け取るはずのお金を現時点で受け取ること自体に価値があるという見解のもと、その価値を控除するという考え方です。

    養育費を支払う側としては、毎月払いであれば手元の資産を運用することができ、それによって利息や運用益が得られたはずです。そのため、養育費の総額から中間利息を控除する必要があり、その結果として、養育費の総額が減ることになります。

    また、養育費の一括払いは、金額によっては高額であるため、そもそも一括で支払うこと自体が困難な場合もあります。そのような場合には、養育費を一括でまとめて支払う代わりに、養育費の総額の減額を求められることもあります。

    ② 話し合いが長期化するリスク
    養育費の一括払いは、当事者双方の合意がある場合に限って認められる支払方法です。当事者のどちらか一方が反対している場合には、採用することができません。

    養育費を一括で受け取ることにこだわっていると、話し合いが停滞してしまい、離婚問題の解決が長期化してしまうというリスクが生じます。

3、一括払いで合意した場合の3つのポイント

養育費の一括払いという方法で双方合意に至った場合には、以下の3点に注意が必要です。

  1. (1)合意した内容は公正証書に記載する

    養育費の支払方法について、双方で合意した場合には、離婚協議書などの書面を作成するとともに、公正証書を作成することをおすすめします。
    公正証書とは、公証役場の公証人が作成する公文書であり、当事者が作成する私文書としての離婚協議書とは異なる性質を有する書面です。

    作成する際のポイントとして、公正証書自体が法的効力を持つものではないため、強制執行認諾文言を書面に明記するようにしましょう。そうすることで、養育費の滞納が生じた場合に、直ちに相手の財産を差し押さえるなどの強制執行が可能になるという点が挙げられます。

    養育費の一括払いの場合は、毎月払いに比べて支払いが滞納するリスクは低いといえますが、ゼロではありません。もしものときに備えて、確実に未払いの養育費を回収するためにも強制執行認諾文言付きの公正証書を作成するようにしましょう。

  2. (2)贈与税が課税されるリスク

    養育費を毎月払いとする場合には、生活費または教育費としてその都度支払われる費用にあたるため、贈与税が課税されることはありません。しかし、養育費の支払いを一括で受け取ることにした場合には、贈与税が課税されるリスクが生じます。

    どのような場合に贈与税が課税されるかについては、税務署の判断になるため、一概にはいえませんが、贈与税課税のリスクがあるということは押さえておく必要があるでしょう。

  3. (3)追加請求が難しい場合がある

    養育費の支払いを一括で受け取る場合には、将来生じるであろう事情変更などのリスクも踏まえた金額にしていることが多い傾向にあります。

    そのため、途中で養育費の金額が不足するような事態になったとしても、相手に対して追加請求を求めることはできないと考えられます。ただし、子どもの事故や病気などによる想定外の療養費が生じた場合には、追加請求が認められるケースもあります。

    このような事情でも、養育費を一括でしっかり支払った側としては、「養育費は一括払いで解決済み」という認識を持っているでしょう。そうすると、話し合いでは養育費の追加請求に応じてくれず、家庭裁判所の調停や審判が必要になることもあるでしょう。

4、養育費を取り決めるときの流れ

養育費を取り決める場合には、以下のような流れで行います。

  1. (1)当事者同士の話し合い

    養育費に関して取り決める場合には、まずは、当事者同士の話し合いで、養育費の金額、支払いの始期・終期、支払方法などを決めます。

    養育費の金額については、裁判所が公表する養育費の算定表を利用することで、当事者の収入や家族構成に応じた養育費の相場を知ることが可能です。養育費の金額で揉めるような場合には、この算定表を利用してみると良いでしょう。

    養育費の一括払いは、当事者が合意している場合に限って採用することができる支払方法です。もし相手に対して養育費の一括払いを求める場合には、後述する調停や審判ではなく、当事者の話し合いで取り決めることを目指すべきです。

  2. (2)調停

    養育費に関して当事者間で合意が得られない場合には、家庭裁判所の調停を利用することになります。

    夫婦が離婚前であれば、夫婦関係調整調停(いわゆる離婚調停)において養育費について取り決めを行います。離婚後であっても、養育費請求調停を申し立てることによって、養育費の取り決めすることが可能です。

    調停では、家庭裁判所の調停委員が間に入って話し合いを進めてくれるため、当事者同士で話し合いをするよりもスムーズに解決することが期待できます。

    調停も話し合いによる解決ですので、一括払いを定めることができないわけではありません。しかしながら、調停委員は毎月払いを原則と考えているため、一括払いで取り決めることに積極的にはなってくれません。

  3. (3)裁判または審判

    離婚前の夫婦関係調整調停(離婚調停)が不成立となった場合には、離婚裁判を起こして、その中で養育費の問題を裁判官に判断してもらうことになります。また、離婚後に行われる養育費請求調停が不成立となった場合には、特別な申し立てを必要とすることなく、自動的に養育費請求審判に移行します。

    このような裁判や審判では、当事者の主張や証拠などから裁判官が適切だと考える養育費の金額および支払方法などを判断することになります。

    養育費の支払方法としては毎月払いが基本であるため、裁判または審判において、養育費の一括払いが命じられることは、よほどの事情がない限りありません

5、まとめ

養育費の支払方法を一括払いとすることによって、支払いを受ける側は、将来の養育費滞納のリスクを回避することが可能です。
しかし、一括払いは金額も高額となり、義務者の資力によっては対応することができない場合もあります。また、対応できる場合でも不利にならないような金額にする必要があることに注意しましょう。

養育費の一括払いを検討中の方は、養育費の問題に詳しい弁護士がサポートいたしますので、ベリーベスト法律事務所 和歌山オフィスまでぜひお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています