養育費はいつの年収が基準になるの? 計算のルールや給与の増減
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厚生労働省が公表する「人口動態統計特殊報告」によると、令和2年度の和歌山県の離婚数は1529件でした。平成25年以降、和歌山県の離婚件数は減少し続けています。
子どもがいる夫婦が離婚をする場合には、子どもの親権とともに養育費の金額を決めなければなりません。
養育費の金額は夫婦の話し合いによって自由に決めることができますが、養育費算定表を基準にして話し合いをすることが多いといえます。養育費算定表では、夫婦の年収によって養育費の相場を知ることが可能ですが、その際に利用する年収は、いつの年収が基準になるのでしょうか。
今回は、養育費の計算と年収との関係について、ベリーベスト法律事務所 和歌山オフィスの弁護士が解説します。
養育費の取り決めをする話し合いのときに役立つような情報をまとめているので、お悩みがある方のご参考になれば幸いです。
1、養育費の算定で使用する年収はいつのもの?
養育費の算定で使用する年収はいつのものになるのでしょうか。以下では、養育費算定の基本と年収との関係について説明します。
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(1)養育費の算定方法
養育費の金額の決め方については、法律上の決まりはありませんので、夫婦の話し合いによって自由に決めることができます。しかし、養育費を請求する側としては少しでも多くもらいたいと考えますし、養育費を支払う側としては少しでも少なくしたいと考えるのが通常です。そのため、お互いが自由に主張をしていると養育費の金額を決めるのが難しいことがあります。
そのような場合に利用されるのが養育費算定表というツールです。
養育費算定表とは、裁判所が公表している養育費や婚姻費用の算定基準であり、夫婦の収入と子どもの人数・年齢に応じて養育費の金額の相場を簡単に調べることができます。裁判所のホームページ上で公開していますので、誰でも簡単に利用することが可能です。
なお、ベリーベスト法律事務所でも養育費計算ツールをご用意していますので、ぜひご活用ください。
養育費算定表では、養育費を支払う側の年収だけでなく、養育費をもらう側の年収も基準になるのがポイントです。なお、児童手当や児童扶養手当については、養育費の計算上は特に考慮されることはありません。 -
(2)養育費の算定で使用する「年収」とは?
養育費算定表で養育費を算定する際に利用する年収は、原則として確定している前年度の収入になります。たとえば、令和4年4月の時点で養育費を取り決めるという場合には、令和3年1月から12月までの年収を基準にして計算をします。
給与所得者の場合には、会社からもらう源泉徴収票の「支払金額」を見れば養育費の算定で利用する年収がわかります。自営業者の場合には、確定申告書の「課税される所得金額」が養育費の算定で利用する年収です。
ただし、自営業者の場合には、税法上実際に支出されていない費用についても控除されていますので、養育費の算定の際には、「課税される所得金額」に青色申告控除、基礎控除、支払いがされていない専従者給与などを加算したものを年収とします。
2、給料の増減が著しい場合の算定は?
では、給料の著しい増減があった場合にも前年度の年収を基準に養育費を算定しなければならないのでしょうか。
たとえば、転職をしたことによって、前年度よりも年収が減ることがわかっている場合や昇進によって各種手当が付くことによって給料が増えたような場合には前年度と今年度で年収に大きな違いが生じることになります。
このような場合には、今年度の収入をベースにして養育費を算定することがあります。
今年度の年収については、まだ源泉徴収票が発行されていませんので、今年度の年収を算定する場合には、給与明細を使用することになります。ただし、給与明細は、特定の月の月額にすぎませんので、歩合給などが多い場合には1か月分の給与明細だけでは正確な年収を反映しているとはいえません。そのため、複数月の給与明細の給与を平均して年収を計算することが大切です。
また、給与明細で計算する際に忘れがちなのが、賞与や一時金の存在です。
賞与は、一般的には年2回支給されますが、養育費の算定時期によっては、まだ賞与が支給されていないこともあります。賞与の金額は、本人の成績や会社の業績によって決まるため、変動がある部分ですが、金額が不確定という場合には、前年度の賞与をベースに計算をするのが一般的です。
3、年収を確認する方法
養育費の算定の際に使用する年収を確認したい場合には、どのような方法をとればよいのでしょうか。
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(1)年収を確認する資料
養育費を算定する際の年収を確認する資料としては、以下のものが挙げられます。
① 源泉徴収票
源泉徴収票とは、1年間に会社から支払われた給料や賞与などの総額、納めた所得税の金額などが記載された書類です。通常は、年末調整後に12月分の給与明細と一緒に受け取ります。
養育費の算定の際には、源泉徴収票の「支払金額」を基準に算定をします。
② 課税証明書
課税証明書とは、市区町村が発行する書類であり、個人の所得や課税額などを証明する書類です。所得金額を証明する場面だけでなく、所得がないことを証明する場合にも課税証明書を取得する必要があります。
また、源泉徴収票では、源泉徴収票を発行した会社からもらった給料などの総額しか記載されていません。そのため、当該会社以外でも働いている(副業など)場合には、源泉徴収票だけではすべての所得が反映されているとはいえません。このような場合には、源泉徴収票だけでなく課税証明書の取得が必要となります。
③ 確定申告書
自営業者の場合には、会社から給料の支払いを受けているわけではありませんので、源泉徴収票が存在しません。しかし、自営業者は、毎年確定申告をすることによって、所得を計算して税金を納めています。そのため、自営業者の所得については、確定申告書を確認することで明らかになります。
養育費の算定の際には先述のとおり、確定申告書の「課税される所得金額」に青色申告控除、基礎控除、支払いがされていない専従者給与などを加算した金額を基準に算定します。
④ 給与明細・賞与明細
年収に著しい増減があり、前年度の収入を基準に養育費を計算することが不公平であるという場合には、今年度の年収を基準に計算をすることがあります。しかし、今年度の年収は、まだ確定していませんので、給与明細や賞与明細を基準にして、概算の年収を計算することになります。 -
(2)年収確認資料を入手する方法
上記の年収確認資料については、以下のような方法で入手します。
① 本人から任意での提出を求める
年収確認資料は、本人のみが取得することができ、また本人が保管している書類になりますので、まずは配偶者から任意で提出するように求めるようにしましょう。
養育費算定表を利用して養育費の相場を知るためには、夫婦双方の収入金額を明らかにする必要がありますので、「適切な養育費の金額を計算するために必要」などと説明をして、年収確認資料を提出してもらうようにしましょう。
② 弁護士会照会
本人から任意で提出がなされない場合には、弁護士会照会という方法によって年収確認資料を取得することが可能です。弁護士会照会とは、弁護士が依頼を受けた事件について証拠や資料を収集することができる法律上の制度をいいます。弁護士会照会を利用するためには、弁護士に依頼をする必要がありますので、個人では利用することができない手続きです。
③ 文書送付嘱託
文書送付嘱託とは、裁判所が当事者からの申立てによって文書を所持している人や団体に対して文書の送付を嘱託する手続きです。調停や裁判になっている場合には、裁判所の文書送付嘱託を利用することによって、相手の勤務先や市区町村役場から年収確認資料の送付を求めることができます。
4、養育費については弁護士へ相談を
養育費についてお悩みの方は、弁護士に相談をすることをおすすめします。
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(1)適切な金額を算定することができる
養育費の金額については、養育費算定表を利用することによってある程度の金額の相場を知ることができます。しかし、養育費算定表は、簡易迅速な計算を目的としたツールですので、養育費算定表によって計算した金額は、当事者の個別具体的な事情は一切反映されていない金額となります。
適切な養育費の金額を算定するためには、養育費算定表を参考にしつつ、個別具体的な事情を考慮して修正していくことが大切です。一般の方だとどのような要素をどのように加味すればよいかがわからず適切な養育費の金額を算定することが難しいといえます。
養育費は、今後の子どもの成長にとって大事なお金ですので、弁護士に相談をして適切な金額を算定してもらうようにしましょう。 -
(2)相手との交渉を任せることができる
養育費の金額を取り決める場合には、まずは夫婦間で話し合いをすることになります。しかし、離婚に至った事情によっては、夫婦間で話し合いをすることができない場合や、相手が話し合いに応じないということもあります。また、当事者同士で話し合いをすると感情的になってしまい、スムーズに話し合いを進めることが難しいということもあるでしょう。
弁護士であれば、代理人として本人に代わって相手と話し合いを進めることが可能です。相手と話し合いをしなければならないというストレスから解放されるだけでなく、適切な養育費の金額で合意することができるように相手を説得することができます。 -
(3)約束どおりに養育費を支払わない場合は強制執行
養育費の支払い義務者が約束どおりに養育費の支払いを行わない場合には、強制執行の手続きをとることによって、相手の給料や預貯金を差し押さえて強制的に未払いの養育費を回収することができます。
弁護士は、将来養育費の滞納が生じた場合に迅速に強制執行に着手することができるように、強制執行許諾文言つきの公正証書の作成をサポートすることが可能です。また、実際に養育費の滞納が生じた場合には、相手の財産調査を行うなどして、迅速かつ適切に養育費の回収を行うことができます。
5、まとめ
養育費をいつの年収で算定するのかについては、前年度の年収を基準にするのが原則です。
例外的に今年度の年収を基準にする場合でも、未確定な部分が多いため、賞与や一時金などの漏れによって不利な内容にならないように注意が必要です。
養育費に関して争いが生じた場合には、弁護士のサポートが有効となりますので、その際は、ベリーベスト法律事務所 和歌山オフィスまでお気軽にご相談ください。
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