労働基準法が定義する重量物の制限とは? 腰痛は労災認定される?

2023年03月22日
  • その他
  • 重量物
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労働基準法が定義する重量物の制限とは? 腰痛は労災認定される?

和歌山労働局が公表している「令和3年 労働災害発生状況」のデータによると、令和3年に和歌山労働局管内で発生した労災事故の件数は、1250件でした。

重量物を運ぶ業務に従事していると、腰に負担が生じて腰痛の発生原因となることがあります。業務上発生した腰痛であると認定されれば、労災保険からさまざまな補償を受けることができますが、そのためには厚生労働省が定める労災認定要件を満たさなければなりません。

腰痛の労災認定にあたっては、「重量物を扱う業務であること」がひとつの要件とされていますので、重量物の定義をしっかりと押さえておきましょう。本コラムでは、労働基準法が定義する重量物の制限と腰痛による労災認定について、ベリーベスト法律事務所 和歌山オフィスの弁護士が解説します。

1、重量物の定義とは? 法によってどのように制限されている?

職場で持ち運ぶことができる重量物については、労働基準法62条1項、労働基準法64条の3、年少者労働基準規則7条、女性労働基準規則2条によって制限があります。
具体的には、性別、年齢に応じて以下のように定義がなされています。

年齢 重量
断続作業 継続作業
満16歳未満 15kg以上 12kg以上 10kg以上 8kg以上
満16歳以上~
満18歳未満
30kg以上 25kg以上 20kg以上 15kg以上
満18歳以上 法令による制限なし
(通達により体重のおおむね40%以下)
30kg以上 法令による制限なし
(通達により体重のおおむね40%以下)
20kg以上

断続作業とは、作業が間欠的に行われており、長時間継続することのない作業のことです。たとえば、荷物配達などのように、運搬作業のほかにも車の運転などといったものが間に入る業務が断続作業にあたります。

これに対して、継続作業とは、同一の作業が中断することなく行われる作業のことです。たとえば、トラックへの積み込み作業など、荷物の運搬作業が一定時間継続するものが継続作業にあたります。
断続作業より軽い重さのものが重量物に該当するのは、継続作業の方が、身体への負荷が大きいことが理由です。

なお、上記の重量物の制限は、人力で運搬する場合に適用される制限となります。そのため、フォークリフトや代車などを使って荷物を運ぶ場合には、上記の重量制限は適用されません。

2、重量物を運ぶことで腰痛が発生したら労災になる?

重量物運搬などの業務で腰痛が発生した場合には、労災認定を受けられるのでしょうか。腰痛の労災認定基準では、「災害性の原因による腰痛」「災害性の原因によらない腰痛」に区分しています。

  1. (1)災害性の原因による腰痛

    災害性の原因による腰痛とは、腰への外傷で生じる腰痛や、外傷はないものの突発的かつ急激な強い力が原因で筋肉などが損傷して発生した腰痛のことです。
    具体的には、以下のいずれの要件も満たすものをいいます。

    • 腰の負傷または負傷の原因となった急激な力の作用が仕事中の突発的な出来事により生じたと明らかに認められるもの
    • 腰に作用した力が腰痛を発症させ、または、腰痛の既往症・基礎疾患を著しく悪化させたものと医学的に認められること


    たとえば、重量物運搬中に転倒したことで突然腰に急激な力が加わって腰痛が生じたケースや、重量物を持ち上げる際に無理な作業姿勢で持ち上げたために腰痛が生じたケースは、災害性の原因による腰痛として労災認定を受けることができます。

  2. (2)災害性の原因によらない腰痛

    災害性の原因によらない腰痛とは、業務を遂行しているうちに、徐々に腰部へと加わった負荷が作用して発症してしまった腰痛のことです。
    災害性の原因によらない腰痛は、その発症原因により、以下の2つに区別されます。

    ① 筋肉などの疲労を原因とした腰痛
    下記の業務に比較的短期間(約3か月以上)従事し、そのときの筋肉などの疲労が原因で発症した腰痛については、労災認定を受けることができます。
    • 約20kg以上の重量物または重量の異なる物を繰り返し中腰の姿勢で扱う業務(港湾荷役など)
    • 毎日数時間程度、腰に極めて不自然な姿勢を保つ業務(配電工など)
    • 長時間立ち上がれず、同一姿勢を持続したまま行う業務(長距離トラックの運転など)
    • 腰に著しく大きな振動を受ける作業が継続する業務(車両系建設用機械の運転業務など)

    ② 骨の変化を原因とした腰痛
    下記の重量物を扱う業務に相当長期間(約10年以上)継続して従事し、それにより骨に変化が生じたことが原因で発症した腰痛については、労災認定を受けることができます。
    • 約30kg以上の重量物を労働時間の3分の1程度以上におよび取り扱う業務
    • 約20kg以上の重量物を労働時間の半分程度以上におよび取り扱う業務

3、労災認定されたときに受け取れる労災保険給付の種類

腰痛を理由に労災認定を受けた場合には、労災保険から以下のような保険給付を受けることが可能です。

  1. (1)療養(補償)給付

    療養(補償)給付とは、傷病が治癒するまで病院での治療を無料で受けることができる制度のことをいいます。
    労災指定病院を受診すれば、窓口での医療費の負担なく治療を受けることができるため、労災指定病院での治療がおすすめです。

    なお、労災指定病院以外の病院を受診した場合には、いったん、窓口で治療費を支払わなければなりません。立て替えて支払った治療については、後日に手続きをすることによって、労災保険から支払いを受けることができます。

  2. (2)休業(補償)給付

    労災による怪我や病気が原因で働くことができなくなった場合には、休業4日目から休業(補償)給付を受けることが可能です。

    休業(補償)給付の金額としては、休業1日あたり給付基礎日額の60%が支給され、このほかにも特別支給金として給付基礎日額の20%が支給されるため、給付基礎日額の80%の賃金が補償されることになります。

  3. (3)傷病(補償)年金

    療養開始後1年6か月が経過しても怪我や病気が治癒せず、傷病等級(1級から3級)に該当する場合には、給付基礎日額の245日から313日分の年金が休業(補償)給付に代えて支給されます。

  4. (4)障害(補償)給付

    怪我や病気が治癒した際に、身体に一定の障害が残った場合には、障害(補償)給付を受けることが可能です。

    障害等級1級から7級の場合には給付基礎日額の131日から313日分の障害(補償)年金が支給され、障害等級8級から14級の場合には給付基礎日額の56日から503日分の障害(補償)一時金が支給されます。

4、会社に責任があるのではないかと思ったときは、弁護士に相談を

「労災の発生は会社に責任があるのではないか」と考えられる場合には、まずは弁護士に相談することをおすすめします。

  1. (1)労災保険からの補償だけでは十分ではない

    労災認定を受けることができれば、労災保険からさまざまな保険給付を受けることができるため、ある程度の経済的補填が可能です。

    しかし、労災保険給付には、慰謝料は含まれておらず、障害が残った場合の補償も十分なものとはいえません

    そのため、労災保険からの補償で満足するのではなく、会社に労災発生の責任がある場合には、会社の責任を追及することも検討しましょう。

  2. (2)会社に対して責任追及が可能なケースがある

    会社には、労働契約上の義務として、労働者の生命、身体、健康について十分に配慮すべき義務を負っています(安全配慮義務)。

    会社がこのような義務を怠った結果、労災事故が発生した場合には、安全配慮義務違反を理由として、会社に対して損害賠償請求を行うことが可能です。

    また、同僚の不注意によって怪我をしてしまった場合には、加害者である労働者を雇用する会社にも使用者責任が生じますので、このようなケースでも会社に対して損害賠償請求することができます。

  3. (3)会社への責任追及には弁護士のサポートが不可欠

    会社に対して損害賠償請求をするには、まずは会社との話し合いが必要になります。
    話し合いを持ち掛けても会社が応じてくれない場合には、裁判所に訴訟提起をすることが必要です。

    労働者個人では、会社との交渉や裁判を適切に進めていくことは難しいといえますので、労災による損害賠償請求をお考えの方は、早めに弁護士に相談することをおすすめします。

5、まとめ

重量物を運ぶ業務に従事していると、腰に負荷がかかり、腰痛などを発症することがあります。一定の要件を満たす腰痛に関しては、労災認定を受けることによって、労災保険からさまざまな補償を受けることが可能です。

もっとも、労災保険からの補償だけでは、十分な補償とはいえません。
腰痛予防のために会社が安全配慮義務を怠っていた、ブラックな労働環境だったなど、腰痛に関して会社に責任があると思ったときは、会社への責任追及が可能なケースもあります。

会社への損害賠償をお考えの方は、まずはベリーベスト法律事務所 和歌山オフィスまでお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています