退勤後に寄り道をしたらケガをした! 通勤災害の対象になるのか解説

2022年10月25日
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退勤後に寄り道をしたらケガをした! 通勤災害の対象になるのか解説

和歌山労働局が公表する「労働災害発生状況」の統計資料によると、令和3年に発生した労働災害(労災)の件数は1250件で、前年よりも135件増加しています。

労災というと、建設現場での転落事故や工場で機械に巻き込まれて負傷を負うようなケースをイメージする方が多いかもしれません。しかし、このような業務中の出来事だけでなく、通勤中の傷病についても、「通勤災害」として労災認定を受けられることがあります。

今回は、退勤後に寄り道をした場合の通勤災害について、ベリーベスト法律事務所 和歌山オフィスの弁護士が解説します。

1、通勤災害による事故と認められるためのポイント

労災認定において、通勤中の事故はどのように扱われるのでしょうか。以下では、通勤災害の概要を説明します。

  1. (1)通勤災害とは

    通勤災害とは、労働者が通勤中に事故に遭い、負傷や疾病、傷害または死亡したことをいいます。通勤災害も労災にあたるため、労働基準監督署から労災認定されることによって、労災保険給付金を受け取ることが可能です。

    労災保険上の「通勤」とは、就業に関して、以下の移動を合理的な経路および方法(一般に利用する通勤経路や通勤手段等)によって行った場合をいいます。

    • 住居と就業場所との間の往復
    • 就業場所から他の就業場所への移動
    • 住居と就業場所との間の往復に先行し、または後続する住居間の移動


    上記のとおり、通勤災害と認められるためには、「労災保険において定義される通勤中の事故であるか」がポイントです。

  2. (2)移動の逸脱・中断があった場合の考え方

    通勤の途中で移動の逸脱・中断があった場合、それ以降の移動は原則として「通勤」にはあたりません。そのため、移動の逸脱・中断後に事故にあったとしても、通勤災害に該当しないことになります。

    なお、逸脱とは、就業や通勤に関係のない目的で、通勤途中に合理的な経路をそれることです。また、中断とは、通勤経路上で通勤に関係のない行為をすることをいいます。

    たとえば、通勤(帰宅)中に居酒屋に立ち寄った場合や、趣味であるアウトドア用品の購入のためにお店に立ち寄った場合などは、移動の逸脱・中断にあたるといえるでしょう。

2、退勤後の寄り道は、どこまでが労災認定される?

会社からの退勤後、どこまでの寄り道であれば労災認定を受けることができるのでしょうか。

  1. (1)労災認定を受けることができる寄り道

    前述のとおり、退勤後の寄り道が移動の逸脱・中断に該当する場合には、それ以降の移動で事故が起こったとしても、原則として労災認定を受けることができません。

    しかし、これには例外があります。日常生活を営む上で必要な行為であり、やむを得ない理由で最小限度の範囲で行われた逸脱・中断であった場合、その後合理的な通勤経路に戻ってからのことについては、労災保険の対象となる「通勤」と認められるのです。

    日常生活上、必要な行為の例としては、以下のものが挙げられます。

    ① 日用品の購入その他これに準ずる行為
    日用品の購入に該当するものとしては、たとえば、以下のとおりです。
    • パン、米、酒類などの飲食料品
    • 家庭用薬品
    • 下着、ワイシャツ、背広などの衣料品
    • 灯油などの家庭用燃料品
    • 身まわり品
    • 文房具、書籍
    • 電球、台所用品
    • 子どものおもちゃ

    日用品の購入に準ずる行為としては、以下のような例が挙げられます。
    • 独身の労働者が通勤途中で食事をする場合
    • クリーニング店に立ち寄る場合
    • 理髪店、美容院に行く場合
    • テレビ、冷蔵庫などの修理を依頼しに行く場合
    • 税金、水道光熱費などの支払いに行く場合
    • 市役所に住民票や戸籍謄本などを取りに行く場合

    ② 職業能力の開発に資する職業訓練、教育訓練を受ける行為
    • 中学校、高等学校、中等教育学校、大学、高等専門学校、特別支援学校での教育
    • 職業能力開発校、職業能力開発短期大学校、職業能力開発大学校、職業能力開発職業能力開発促進センター、障害者職業能力開発校での職業訓練

    ③ 選挙権の行使その他これに準ずる行為
    • 選挙のために投票に行く行為

    ④ 病院などにおいて診察・治療を受けることその他これに準ずる行為
    • 人工透析を受けるために病院に立ち寄る行為
    • 接骨、はり、あん摩などの施術を受けるために立ち寄る行為
    • 家族の見舞いのために病院に立ち寄る行為
  2. (2)労災認定を受けることができない寄り道

    上記の寄り道に類似するようなケースであっても、以下のような寄り道については、労災認定を受けることができません。

    ① 同僚と居酒屋に寄り道するケース
    独身の労働者が食事のために飲食店に立ち寄ることは日常生活上必要な行為といえますが、居酒屋でお酒を飲む行為は日常生活上必要な行為とはいえないため、移動の逸脱・中断にあたります。

    ② ゴルフ用品などの購入のために寄り道するケース
    ゴルフ用品やアウトドア用品など購入は、趣味・娯楽のための買い物となります。そのため、日常生活上必要な行為とはいえません。

    ③ 英会話などの習い事のために寄り道をするケース
    英会話などの習い事は、趣味・娯楽のための教育訓練になります。公共職業開発施設での職業訓練とは異なり、日常生活上必要な行為とはいえません。

3、通勤災害が認められた場合に治療費の支払いを受ける方法

通勤災害と認められた場合には、以下で説明する方法によって、療養(補償)給付を受けることが可能です。

  1. (1)療養(補償)給付とは

    療養(補償)給付とは、労災によって傷病を負った労働者が治療費などの補償を受けることができる制度です。

    療養(補償)給付は、治療費や入院費用など、療養のために通常必要となるものが含まれており、労災に遭った労働者の傷病が治癒するまで支給されます。

  2. (2)療養(補償)給付の受給方法

    療養(補償)給付を受けるには、労災保険指定医療機関を受診した場合と、その他の医療機関を受診した場合で受給方法が異なってきます。

    ① 労災保険指定医療機関を受診した場合
    労災保険から医療機関に対して、直接医療費が支払われます。そのため、医療機関の窓口では、労働者側の費用負担はありません。

    労災保険指定医療機関を受診する際には、労災での治療であることを窓口で伝えるとともに、以下の書類を提出します。
    • 「療養給付たる療養の給付請求書(様式16号の3)」(通勤災害の場合)
    • 「療養補償給付たる療養の給付請求書(様式第5号)」(業務災害の場合)

    ② 労災保険指定医療機関以外を受診した場合
    受診後、労働者が窓口で医療費を支払う必要があります。労災の場合には、健康保険を利用することができません。そのため、労災に遭った方(被災労働者)は、医療費の全額を支払うことになります。

    もっとも、被災労働者が支払った医療費については、後日労働基準監督署に申請をすることによって、支払いを受けることができますので、実際の負担はありません。
    申請する際には、以下の書類を提出します。
    • 「療養給付たる療養の費用請求書(様式16号の5)」(通勤災害の場合)
    • 「療養補償給付たる療養の費用請求書(様式第7号)」(業務災害の場合)

4、ケガの治療のために会社を休む場合に受けられる補償

ケガの治療で通院するために会社を休むことになった場合には、労災保険から休業(補償)給付を受けることができます。

  1. (1)休業(補償)給付とは

    休業(補償)給付とは、労災によって傷病を負った労働者が仕事を休むことになった場合に、その間の収入を補償する制度のことです。

    休業(補償)給付を受けるには、以下の3つの要件を満たさなければなりません。

    • 業務災害または通勤災害による傷病の療養であること
    • 労働することができないこと
    • 賃金の支払いを受けていないこと


    給付基礎日額の60%×休業日数分の休業(補償)給付に加えて、給付基礎日額の20%×休業日数分の特別支給金が支払われるため、ケガの治療のために仕事を休んだとしても、給付基礎日額の80%に相当する収入が補償されることになります。

  2. (2)休業(補償)給付を受けるための手続き

    休業(補償)給付を受けるためには、労働基準監督署に以下の書類を提出する必要があります。

    • 「休業給付支給請求書(16号の6)」(通勤災害の場合)
    • 「休業補償給付支給請求書(8号)」(業務災害の場合)


    書類の提出を受けた労働基準監督署では、内容の審査が行われます。結果、問題がなかった場合には、被災労働者側へ支給決定通知が送付されます。

    休業(補償)給付を受けるまでには、通常1~2か月程度の期間がかかるということに留意しましょう。

5、まとめ

会社からの通勤(帰宅)中に事故に遭ってしまった場合には、通勤災害として労災認定を受けることができるケースもあります。
たとえ寄り道をしていた場合でも、それが日常生活上必要な行為であった場合には、寄り道後の移動についても労災認定の対象になるのです。

労災認定を受けた場合には労災保険から補償を受けることができますが、必ずしも十分な補償とはいえません。
通勤災害で障害が残ってしまったような場合には、後遺障害等級の認定で給付金を受け取ることが可能です。また、場合によっては、第三者への損害賠償請求ができることもあります。

労災事故による障害等級の認定基準や申請手続きのサポートもしておりますので、お困りの際にはベリーベスト法律事務所 和歌山オフィスまでお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています