借金を20年放置していたら時効になる? 時効の援用と注意点

2022年08月16日
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借金を20年放置していたら時効になる? 時効の援用と注意点

借金の問題を背負い込み、誰かに相談したいと考える方は少なくないでしょう。和歌山市内には、多重債務問題の悩みがあるときに弁護士が応じてくれる無料相談窓口を開設している相談機関があります。

現状悩んでいる方の中には、かなり昔に借金をした貸金業者から突然督促状が届いたという方もいるかもしれません。たとえ借金をしたことすら覚えていないような状況であっても、督促状を受け取ったら、「これから滞納分の借金を支払わなくてはならないのか」と思う方がほとんどでしょう。

しかし、取引のない状態で一定期間が経過すると、借金の時効を迎えていることがあります。このとき、時効を援用することにより、借りていたお金の返済義務がなくなる可能性があるのです。今回は、20年放置した借金の時効が成立するケースや時効援用の注意点などについて、ベリーベスト法律事務所 和歌山オフィスの弁護士が解説します。

1、20年放置した借金は時効? 消滅時効の基本的事項

20年放置していた借金は、時効になるのでしょうか。以下では、借金が帳消しになる消滅時効の基本的事項について説明します。

  1. (1)借金の消滅時効とは

    消滅時効とは、一定の期間中に権利を行使しなかった場合に、その権利を消滅させるという制度です。

    貸金業者などの債権者は、お金を借りた債務者に対して借金の返還を求めることができる「貸金返還請求権」を有しています。一定期間、この権利の行使がなされなかった場合には、権利自体が消滅してしまうため、債権者は借金の返済を求めることができません。

    つまり、消滅時効が成立する借金の督促状を受け取ったとしても、債務者側は返済をする必要がないということです。

  2. (2)借金の時効期間は何年?

    では、どのくらいの期間がたつと借金の消滅時効は成り立つのでしょうか。これは、令和2年4月に民法改正があったため、借金をした時期によって時効期間の考え方が変わる点に注意が必要です。

    ① 令和2年4月1日以降の借金について
    令和2年4月1日以降に借り入れた借金には、改正民法が適用されます。

    改正民法で定められた消滅時効期間の規定は、以下のとおりです(民法166条)。

    • 債権者が権利を行使できると知ったときから5年間
    • 債権者が権利を行使することが可能な時点から10年間


    このうち、早いほうの期日で消滅時効が成立となります。

    本来、借金には弁済期(支払期限)が定められており、その期日の到来によって債権者は貸金返還請求権を行使することが可能です。弁済期は契約書に明記されており、債権者は「権利を行使できる」ということは当然知っているものとみなされます。そのため、原則として、弁済期を起算点として5年が過ぎれば時効です。

    ② 令和2年3月31日以前の借金について
    令和2年3月31日よりも前に借り入れた借金については、改正前民法が適用されます。
    改正前民法では、借金の消滅時効は10年間と定められていましたが(改正前民法167条1項)、貸金業者などからの借り入れの場合には、5年間が時効期間とされていました(改正前商法522条)。

    そのため、貸金業者からの借金については、改正前民法も改正民法と同様に弁済期を起算点として5年間が時効期間です。

    ただし、改正前商法が適用されるのは、商行為によって生じた債権に限られます。つまり、個人間の借金や信用金庫、労働金庫などのように営利を目的としていない組織からの借り入れであった場合、時効期間は5年ではなく10年である点に注意が必要です。

2、時効が成立するケース

以下のような3つのケースでは、借金の時効が成立している可能性があると考えられます。

  1. (1)弁済期または最終の返済日から5年以上経過している

    消滅時効期間は、上記で説明したとおり、弁済期の到来から5年です。そのため、お金を借りたものの、期日以降1度も返済をすることなく5年が経過しているという場合には、消滅時効が成立している可能性があります。

    また、借金をしてから何度か返済をしたものの、途中から返すことをストップし、それ以降何もしていないという方もいるでしょう。この場合は、最終の返済日を基準にして5年が経過していれば、借金の消滅時効が成立します。

    20年放置している借金は上記に該当すると考えられるため、借金の時効が成立している可能性は高いといえるでしょう。

  2. (2)債権者から訴訟や支払督促を起こされていない

    借金を20年放置していると、その間に債権者から訴訟や支払督促を起こされていることもあるため、注意が必要です。

    もし裁判などによって債権者への支払いを命じる判決が確定した場合には、それまでカウントされていた時効期間がいったんリセットされてしまいます。その後、再び時効のカウントがスタートしますが、判決が確定したときから10年が経過しなければ、消滅時効は成立しません。
    たとえ20年前にした借金だったとしても、8年間借金の返済を続けたものの放置し、その4年後に訴訟を提起されて敗訴したような場合、まだ時効が完成していないことになるのです。

    そのため、借金の消滅時効を確認するときは、債権者からの訴訟や支払督促の有無が重要なポイントとなります。

  3. (3)借金の存在を認める行動をとっていない

    債務者が借金の存在を認めるような行動をとっていた場合には、債務の承認とみなされます。加えて、それまでカウントされていた時効期間が一時的にゼロからのスタートになるため、注意が必要です。

    債務承認にあたる行動としては、以下のものが挙げられます。

    • 借金を少しでも返済する
    • 返済の猶予を求める
    • 和解書や示談書にサインをする
    など


    たとえば、100万円の借金のうち100円でも支払ってしまえば、それは債務承認にあたります。借金が時効になっている可能性がある場合には、安易に借金の存在を認めるような行動は避けるようにしましょう。

3、時効の援用のやり方と注意点

時効の援用とは、どのようなものなのでしょうか。以下では、時効の援用と手続きの行い方および注意点について説明します。

  1. (1)時効の援用とは

    借金の消滅時効期間が過ぎただけでは、債務者の借金はなくなりません。消滅時効の利益を受けるためには、「時効の援用」という手続きが必要です。

    借金の時効の援用とは、「時効により、その借金への返済義務はない」という主張および意思表示であり、これによって時効の効果が確定的に発生します。

    親しい友人や知人からの借金であった場合には、時効期間が経過していたとしても、相手にしっかりとお金を返していきたいと考える方もいるでしょう。そのため、期間の経過によって確定的に権利を消滅させるのではなく、債務者の意思に委ねるという趣旨の制度です。

  2. (2)時効を援用する方法

    時効の援用はそれほど難しいものではなく、債務者が債権者に対して「消滅時効を援用します」という意思表示をすれば成立します。法律上は、時効援用の方法についての規定がないため、口頭での意思表示でも問題ありません。

    しかし、口頭での意思表示では、後日時効の援用があったかどうかでトラブルになる可能性があります。

    そのため、時効の援用をする場合には、必ず「時効援用通知書」という書面を作成し、配達証明付きの内容証明郵便を利用して債権者に送るようにしましょう。

    時効援用通知書に記載すべき必要な事項は、以下のとおりです。

    • 時効援用日
    • 自分の名前と連絡先
    • 債権者や金額面、借り入れした日付など、借金に関する情報
    • 時効が成立している事実と援用の意思表示
    • 信用情報機関に登録している情報の削除依頼


    これによって、時効の援用を行った事実を証明することができます。

  3. (3)時効援用の注意点

    時効の援用をするときは、以下の2点に注意が必要です。

    ① 時効期間の経過を確認する
    時効援用通知書は、必ず時効期間が経過してから送ることが重要です。

    時効期間が経過する前に時効援用通知書を送ったとしても、時効援用の効果はありません。また、時効完成が間近であることを知った債権者としては、時効の更新や完成猶予をするための措置をとると考えられます。

    何もしなければ、借金帳消しの時効が成立していたにもかかわらず、時効の援用が早すぎたばかりに時効の利益を失ってしまう可能性があることに留意してください。

    ② 債権者から督促状が届いても慌てない
    債権者から督促状などが届くと、突然のことで慌ててしまう方もいます。しかし、まずは落ち着いて対応することが大切です。

    焦って連絡をしてしまうと、債権者の要求に応じて債権額の一部を支払ってしまったり、支払い猶予や減額に応じる和解をしてしまったりするケースも考えられます。上述のとおり、このような債務承認にあたる行動をしてしまうと、消滅時効が成立していたとしても、借金の支払いをしなくてはなりません。

    そのため、督促状が届いたからといって、すぐに債権者に連絡をしないよう注意してください。
    督促状が届いた後はどうすればよいかわからないという場合には、弁護士に相談をしてから対応を決めるようにしましょう。

4、借金は任意整理の利用がおすすめ

長期間放置していた借金だけでなく、借金問題でお悩みの方は、弁護士による任意整理をおすすめします。

  1. (1)債権者からの督促が一時的にストップする

    支払いが難しい状況であるにもかかわらず、債権者から定期的に支払いを催促する連絡が来ると、その対応だけでストレスに感じてしまうという方も多いでしょう。

    借金の問題を弁護士に依頼すれば、債権者からの督促を一時的にストップすることができるため、ストレスを緩和することが可能です。

    依頼を受けた弁護士は、各債権者に対して受任通知という書面を送ります。
    この受任通知が債権者に届くと、債務者に対する直接の取り立て行為は禁止されることになります。そのため、平穏な環境で生活再建に取り組むことができるでしょう。

  2. (2)過去の借金も適切に整理できる

    20年放置していた借金などがある場合には、その間に債権者から裁判を起こされている可能性もあり、時効が成立しているかどうかの判断が難しいことがあります。
    また、正確な返済日などを覚えていることも少なく、あいまいな記憶で対応してしまうと、思いもよらない不利益を受けてしまいかねません。

    弁護士に債務整理を依頼すれば、20年放置していたような借金など、過去の分も含めてすべての借金を適切に整理することが可能です。

    時効が成立している借金がある場合には、時効の援用によって処理を行い、時効が成立していない借金については、返済額の変更や将来利息のカットなどによって毎月の支払いの負担を軽減することができます。

    借金の負担を少しでも軽くしたいとお考えの方は、弁護士に相談することをおすすめします。

5、まとめ

20年放置していた借金がある場合には、借金の消滅時効によって返済する必要がないかもしれません。その際は、時効の援用の手続きを行わなくては、時効の効果が確定されない点に注意しましょう。

そもそも時効が成立しているかどうかについては、専門家でなければ判断が難しいこともあります。借金の問題でお悩みを抱えている方は、ベリーベスト法律事務所 和歌山オフィスまでお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています