取り調べで弁護士に立ち会いをお願いできる? 逮捕後の請求も解説

2025年05月28日
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取り調べで弁護士に立ち会いをお願いできる? 逮捕後の請求も解説

令和6年11月、和歌山の検察庁で不適切な取り調べが行われていたことを最高検察庁が認定し、公表しました。和歌山市内の漁港で当時の首相へ爆発物を投げつけたとされる事件の取り調べにおいて、検察官が被告人の人格を否定するような発言をしたことが問題視されたものです。

もしもご自身やご家族が警察や検察で取り調べを受けることになった場合、「弁護士の立ち会いは認められるのか?」と疑問を抱かれるかもしれません。

本コラムでは、刑事事件における弁護士の取り調べ立ち会いの可否や、被疑者の権利を守るための対応策について、ベリーベスト法律事務所 和歌山オフィスの弁護士が解説します。


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1、取り調べで弁護士に立ち会いをお願いできる?

警察や検察で取り調べを受ける際の弁護士立ち会いについて、法律上の規定や実務での運用状況について解説します。

  1. (1)法律上の規定について

    憲法・刑事訴訟法において、被疑者・被告人の弁護人依頼権は保障されていますが、警察や検察の取り調べにおいて、弁護士の立ち会いを認めるか禁止するかの明確な規定は存在しません。
    ただし、犯罪捜査規範という捜査実務に関する規則には、「取り調べを行うに当たって弁護人その他適当と認められる者を立ち会わせたときは、その供述調書に立会人の署名押印を求めなければならない」(180条2項)と定められています。
    このように、取り調べに弁護士が立ち会うことを想定した規定は存在するものの、弁護士立会権という形での法的根拠はないのが現状です。
    先進国では、取り調べにおける弁護士の立ち会い権が明確に規定されている例も多く見られ、一部の弁護士会では刑事訴訟法の改正を求める声も上がっていますが、日本では法整備が進んでいません。

  2. (2)実務の運用について

    日本の実務では、弁護士立ち会いについて明確な法的根拠がないため、警察や検察が立ち会いの可否を判断する立場にあります。
    しかし、実際には弁護士が立ち会いを申し入れても、認められることはほとんどありません。
    捜査機関は、「弁護士の立ち会いが真相究明の妨げになる」などとして、制度化に強く反対しています。
    また、裁判所も弁護士立ち会いを認めなかったことを違法と判断した例はありません。
    ただし、取り調べの録音・録画が証拠として提出され、不当な取り調べが明らかになった場合、供述調書が証拠として採用されなかったり、民事訴訟で賠償を命じられたりした事例はあります。

  3. (3)取り調べの録音・録画

    弁護士立ち会いについては進展が見られない一方で、裁判員裁判制度の導入に伴い、録音・録画による取り調べの可視化が進められています。
    現在、録音・録画の対象は、「裁判員裁判対象事件」や「被疑者が逮捕・勾留されている事件(身柄事件)」などに限られていますが、今後は、対象事件の拡大や警察における取り調べへの導入が検討されています。
    なお、冒頭で紹介したように、取り調べ映像が民事裁判の法廷で再生される事例が見られるようになっており、捜査の実務にも少なからず影響が及ぶことも考えられるでしょう。

2、取り調べで弁護士が立ち会えない場合の対策

警察や検察での取り調べにおいて、弁護士の立ち会いが認められる可能性は非常に低くなっています。
そのため、弁護士が取り調べに同席できない状況で、被疑者が自身の権利を守るためにどのように対応すべきかを解説します。

  1. (1)黙秘権の行使について

    取り調べを受ける際、被疑者には、言いたくないことは話さなくてよい「黙秘権」が憲法上保障されています。
    ただし、黙秘権を行使すれば、不本意な供述が証拠として使用されることはありませんが、その一方で、捜査や刑事裁判が長期化したり、取り調べが厳しくなったりする可能性があります。
    そのため、黙秘権は不当に重い刑事責任を避けるための手段のひとつとして、必要な場面で行使するのが賢明といえます。

    また、罪を認めて争わない場合には、捜査に協力することで手続きの迅速化や、処分の軽減を図ることができるかもしれません。
    一方で、供述内容によってより重い刑になる可能性がある事案では、弁護士と相談してから供述するか、黙秘するという対応が必要になることもあります。

    最終的に無罪を目指すのか、起訴猶予処分や刑の軽減を目指すのかなど、方針について弁護士とよく相談した上で取り調べに臨むことが重要といえるでしょう。

  2. (2)供述調書への対応

    取り調べを受けると供述調書が作成され、署名と押印を求められますが、その際の対応も重要です。
    ここで署名押印した供述調書は、基本的に裁判の証拠として用いられる可能性があることを認識しておきましょう。供述したとおりの内容になっていない場合は、訂正を求めたり、署名を拒否したりしても問題ありません。

    裁判でも事件についての認否や言い分を述べる機会はありますが、供述調書の内容と異なる供述をしても、捜査段階での供述が採用される可能性が高いのが実情です。刑事裁判では供述調書とともに、その内容に整合する証拠が提出されるため、それと異なる供述は不合理な弁解と判断されるおそれがあります。
    そのため、取り調べで作成された供述調書は、内容を慎重に確認して、不本意な内容の場合は署名を拒否することも検討すべきでしょう。

  3. (3)録音・録画の申し入れ

    取り調べに弁護士が立ち会えない現状においては、録音・録画は不当な取り調べの抑止策として有力な選択肢となります。
    録音・録画が義務化されている事件は限られていますが、対象外の事件でも弁護士からの申し入れにより実施が認められるケースがあるため、特に事実を否認している場合は、不当な誘導や強要を防ぐため、申し入れを検討する価値があるでしょう。

  4. (4)取り調べへの弁護士同行

    弁護士が取り調べ室に同室できなくても、すぐに相談できる環境を整えることは重要です。
    逮捕・勾留されていない場合、取り調べの呼び出しを受けた際に弁護士に同行してもらい、取り調べ室の外で待機する弁護士とすぐに相談できる状態で臨むことができます。
    ただし、逮捕・勾留されている場合は、弁護士との打ち合わせは面会(接見)に限られるため、取り調べ前後の適切なタイミングで弁護士と相談することが必要です。
    不当な取り調べを受けた場合や供述に迷う場合には、すぐに弁護士との面会を要求し、不本意な供述調書が作成されないよう慎重に対応しましょう。

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3、逮捕されてからの刑事手続きの流れ

刑事事件で逮捕された場合の手続きについて、時系列に沿って解説します。

  1. (1)逮捕・検察官送致

    逮捕されると、被疑者は警察の留置施設に収容され、警察官による取り調べが行われます。警察は、逮捕から48時間以内に事件を検察に送致するかどうかを判断し、送致された場合、検察官が被疑者を取り調べます。
    検察官は、送致から24時間以内に勾留請求をするかどうかを決定し、勾留請求が認められれば、最長20日間の身柄拘束が可能になります。

    なお、この期間(逮捕後48時間と送致後24時間)は、弁護士以外との面会が制限されます。

  2. (2)勾留

    裁判所が勾留を認めると、最長20日間まで拘束が継続する場合があります。
    この間、警察署の留置施設で過ごしながら、警察官や検察官など捜査官による取り調べ、現場検証などの捜査が進められます。
    面会制限の決定がない限り、勾留が決定した以降は家族との面会や差し入れが可能になります。

  3. (3)起訴・不起訴処分の決定

    勾留期間満了までに、検察官は以下のいずれかの処分を決定します。

    ① 起訴(公判請求)
    刑事裁判で有罪・無罪の判断と、有罪の場合は刑の重さが審理されます。

    ② 略式命令請求(略式起訴)
    書面審理により罰金額が決定される手続きです。100万円以下の罰金が相当とされる事件で、正式裁判を行わずに罰金刑になることに異議がない場合、選択されることがあります。

    ③ 不起訴処分
    十分な証拠がない場合や、刑事裁判による処罰が不要と判断された場合に選択される処分です。この場合、刑事裁判は行われません。


    ①で勾留されたまま刑事裁判を受けることになる場合を除き、処分決定により釈放されます。
    なお、罪を認めて有罪の証拠がそろっていても、必ずしも起訴されるわけではありません。起訴・不起訴の判断は検察官の裁量により決定されますが、近年の起訴率は約33%で推移しています。

4、家族が逮捕された場合は弁護士に相談を

もしもご家族が逮捕されてしまった場合、弁護士に相談することをおすすめします。
ここでは、早期に弁護士のサポートを受けるメリットについて解説します。

  1. (1)早期釈放に向けた弁護活動

    逮捕・勾留された場合、身柄拘束の長期化を避けるための弁護活動が重要となります。
    逮捕や勾留は、逃亡や証拠隠滅のおそれがあると判断された場合になされますが、身柄拘束を続ける必要性が低いことについて裁判所や検察官の理解を得るには法的な専門知識が不可欠です。
    弁護士は検察官との折衝や書面提出を通じて、早期釈放を目指した弁護活動を行います。

  2. (2)不起訴処分など有利を目指す弁護活動

    不起訴処分を目指すためには、検察官が処分を決定するまでの限られた期間で有利な証拠を積み上げる必要があります。
    具体的には、被害者への謝罪や示談を行ったり、周囲の人による指導監督体制を整えるなどの再犯防止策を打ち出したりできれば、有利な事情として考慮されます。
    なお、捜査中に被害者と接触すると、証拠隠滅と捉えられる可能性や、被害者の心情を害したりするおそれがあるため、弁護士を介して行うことが適切です。

  3. (3)取り調べのアドバイス

    弁護士の立ち会いなしで取り調べに臨まなければならない現状では、処分の見通しや取り調べに向けたアドバイスを受けることが非常に有効です。
    事件の内容によって目指すべき結果は異なりますが、供述の方針を事前に弁護士と打ち合わせておくことで、不利な供述を避け、適切な対応を取ることができます。

  4. (4)精神的なサポートを受けられる

    家族が逮捕されるという事態は、周囲に相談しづらい深刻な問題です。
    今後の見通しが不透明な中で本人の帰りを待つことは、ご家族にとって大きな精神的負担となるでしょう。
    弁護士は、本人の処遇や刑事手続きの見通しについて丁寧に説明し、ご家族が冷静に対応できるようサポートします。
    また、示談交渉や早期釈放に向けた方針を明確にすることで、少しでも安心できるよう支援します。

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5、まとめ

警察や検察の取り調べに弁護士立ち会いが認められる可能性はほとんどないのが現状です。
しかし、逮捕後の対応次第で、早期釈放や不起訴処分の可能性を高めることができます。
刑事事件では迅速な対応が重要であり、弁護士のサポートを受けることで、適切な対策を講じることが可能になります。
ご家族が逮捕された場合は、できるだけ早く弁護士へ相談し、最善の方法を検討することをおすすめします。

ベリーベスト法律事務所 和歌山オフィスでは、刑事事件で被疑者となった方やご家族のご相談を随時受け付けております。お困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。

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