再審請求とは? 流れや事例などを弁護士がわかりやすく紹介
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- 再審請求とは
和歌山市で平成10年に夏祭りに参加した住民らが急性ヒ素中毒になり、4人が死亡、63人が重軽傷を負ったという和歌山毒物カレー事件が起きました。事件の容疑者の女性は、殺人罪などで死刑判決が確定しましたが、令和3年5月に和歌山地裁で再審請求が受理されました。今後の審理の動向が注目されます。
このように刑が確定した後であっても、「再審請求」という方法によって判決内容を争うことができる場合があります。再審請求はあくまでも例外的な救済手段であり、再審請求ができるケースは非常に限られているのが実情です。
再審請求をするには、どのような要件を満たす必要があるのでしょうか。また、これまで再審請求が求められた事例としては、どのようなものがあるのでしょうか。
本コラムでは、再審請求の流れや事例などについて、ベリーベスト法律事務所 和歌山オフィスの弁護士がわかりやすく解説します。
1、再審請求とは
再審請求とは有罪の言い渡しをした確定判決に対して、主に事実認定の誤りを正すために認められた救済手段です。
有罪判決の内容に不服がある場合には、基本的には、上訴手続きによって争っていくことにあります。日本の刑事裁判では、三審制がとられていますので、地方裁判所の判決に不服がある場合には、高等裁判所に控訴をし、高等裁判所の判決に不服がある場合には最高裁判所に上告をすることができます。このような上訴手続きが尽きた場合には、その段階で判決が確定し、その内容は争うことができないものとして扱われるのが原則です。
しかし、確定判決に重大な事実誤認があることが発見され、これを放置することが正義に反するという場合には、例外的に裁判のやり直しが認められます。これが「再審」です。
なお、再審請求は、事実認定の誤りを理由に確定した裁判をやり直す手続きですが、法令違反を理由に確定した裁判をやり直す手続きとして「非常上告」という手続きもあります。どちらも非常救済手段と呼ばれる例外的な制度です。また、死刑囚が再審請求をしていたとしても死刑執行がストップするというわけではありません。
2、再審請求ができるケース
再審請求は、あくまでも例外的なケースですので、再審請求をするためには法律上の厳格な要件を満たす必要があります。再審請求の要件としては、以下のとおりです。
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(1)有罪の確定判決に対する再審請求
有罪の確定判決に対する再審請求をするためには、刑事訴訟法435条1号から7号までのいずれかの事由に該当する必要があります。
- ① 確定判決により原判決の証拠が偽造、変造、虚偽であったことが証明された場合など(刑事訴訟法435条1号~5号)
- ② 無罪などを言い渡すべき明らかな新証拠を発見した場合(刑事訴訟法435条6号)
- ③ 確定判決により関与裁判官などに職務犯罪があったことが証明された場合(刑事訴訟法435条7号)
上記のうち①および③については、再審請求をするためには別途確定判決を得ることを要するため、これらを理由として再審請求をすることは容易ではありません。しかし、②については、証拠の明白性と新規性が認められれば再審請求を行うことができます。
そのため、再審請求の事例のほとんどが②を理由にしたものとなります。なお、証拠の明白性と新規性の詳しい内容については、後述します。 -
(2)上訴棄却の確定判決に対する再審請求
控訴棄却または上告棄却によって有罪判決が確定した場合には、上記の刑事訴訟法435条によって有罪の確定判決に対して再審請求をするのが原則となります。しかし、有罪の確定判決について刑事訴訟法435条所定の再審理由がない場合であっても以下の事由がある場合には、事実誤認または裁判の公正に関して重大な疑義が生じることになりますので、上訴棄却の確定判決自体に対しても再審請求をすることが認められています。
- ① 確定判決により原判決の証拠が偽造、変造、虚偽であることが証明された場合(刑事訴訟法435条1号・2号)
- ② 確定判決によって関与裁判官に職務犯罪があったことが証明された場合(刑事訴訟法435条7号)
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(3)証拠の明白性と新規性とは
刑事訴訟法435条6号に基づき、再審請求を行うためには、証拠の明白性と証拠の新規性という要件を満たす必要があります。
① 証拠の明白性
証拠の明白性とは、新たに発見された証拠が判決の基礎になった事実認定に影響を及ぼすことが明らかであることをいいます。「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の原則に従い、新証拠の証明力としては、事実認定について合理的な疑問を抱かせ、その認定を覆すに足りる蓋然性のある証拠で足りるとされています(最高裁昭和50年5月20日決定)。
② 証拠の新規性
証拠の新規性とは、判決当時既に存在していた証拠を後日発見したという場合に限らず、判決当時存在していたが取り調べを請求することが不可能であった場合や判決の証拠となった供述が虚偽であったとする供述者の告白などについても証拠の新規性は認められます。
ただし、証拠の評価が変わったに過ぎないという場合には、証拠の新規性は否定されます。
3、再審請求の流れ
再審請求の手続きには、再審請求に再審開始の理由があるかどうかを審理する「再審請求手続き」と再審理由がある事件について審理する「再審公判手続き」に分けられます。
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(1)再審請求手続き
① 再審請求をすることができる人
再審請求をすることができるのは、以下の人に限られます。- 検察官
- 有罪の言い渡しを受けた人
- 有罪の言い渡しを受けた人の法定代理人など
- 有罪の言い渡しを受けた人が死亡または心神喪失状態にあるときは、その配偶者、子ども、親などの直系親族、兄弟姉妹
② 請求手続き
再審請求は、趣意書に原判決の謄本、証拠書類・証拠物を添えて管轄裁判所に行います。再審の管轄裁判所は、再審でやり直しを求める判決を言い渡した裁判所です。
再審請求には期限はなく、刑の執行終了後または執行を受けることがなくなったときでもすることができますので、刑務所で刑期を終えて出所した後でも行うことができます。
③ 再審請求の審判
再審請求に理由がないと判断された場合には、再審請求棄却の決定がなされます。他方、再申請求に理由があると判断された場合には、再審開始の決定がなされます。
なお、再審請求に理由がないとして棄却された場合には、同一の理由でさらに再審請求を行うことができないとされています。 -
(2)再審公判手続き
裁判所は、再審開始決定が確定した場合には、刑事訴訟法449条の場合を除いて、再審請求の対象となった確定判決の審級に従って審判を行うことになります。つまり、第1審の確定判決に対する再審の場合は第1審として、控訴棄却・上告棄却の確定判決に対する再審の場合はそれぞれ控訴審または上告審として審理することになります。
再審公判手続きでは、確定判決の当否を審査するものではなく、事件についてまったく新たに審判を行うことになりますが、不利益変更は禁止されていますので、元々の確定判決よりも重い刑を言い渡すことはできません。
なお、再審公判手続きにおいて、無罪の言い渡しをしたときは、被告人の名誉を回復するためにその旨を官報および新聞に掲載しなければなりせん。また、無罪の言い渡しを受けた被告人は、刑事補償の請求をすることができます。
4、再審を行った実際の例
再審を行った実際の事例としては、以下のものが挙げられます。
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(1)布川事件
布川事件とは、昭和42年に茨城県内で発生した強盗殺人事件です。この事件では、被害者の近所に住む男性2人が逮捕・起訴され、無期懲役の判決が確定しました。しかし、有罪判決を言い渡した証拠としては、被告人自身の自白と犯行現場の目撃証言のみであったため、当初から冤罪の可能性が指摘されていた事件でした。
その後、平成13年12月に水戸地方裁判所土浦支部に再審請求の申立てがなされ、平成17年に同裁判所は再審開始の決定をしました。これに対して、検察側から即時抗告および特別抗告がなされましたが、いずれも棄却され平成21年12月に再審開始決定が確定しました。
再審公判は、平成22年7月に水戸地方裁判所土浦支部で開かれ、被告人らに対する強盗殺人罪については、無罪とする判決が言い渡されました。 -
(2)足利事件
足利事件とは、平成2年に栃木県足利市内で発生した女児の殺人・死体遺棄事件です。事件発生の翌年に男性が被疑者として逮捕・起訴され、無期懲役の判決が確定しました。
しかし、平成21年の再鑑定の結果、遺留物のDNA型が本人のものと一致しないことが判明したため、東京高検は刑の執行を停止し、本人を釈放しました。そして、東京高等裁判所は、平成21年6月に再審開始決定をし、再審公判での審理の結果、平成22年3月に無罪の判決が言い渡されました。
冤罪の原因としては、当時十分な精度ではなかったDNA型鑑定を過大評価し、虚偽の自白を強要したことなどが原因とされたことから、以降は、取り調べの全過程を録音・録画するという可視化を求める流れが加速していくことになりました。
5、まとめ
再審請求は、あくまでも例外的な救済手段になりますので、再審請求が認められるハードルは非常に高いといえます。
しかし、根気強く冤罪事件を争うことで無罪が認められたケースもありますので、諦める必要はありません。
刑事事件についてお困りの方は、ベリーベスト法律事務所 和歌山オフィスまでお気軽にご相談ください。刑事事件に関する知見豊富な弁護士が、親身になってサポートいたします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています