離婚したら相続にどんな影響がある? 離婚後の子どもの相続権
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和歌山県が公表する「令和2年 和歌山県の人口動態統計(確定数)の概況」によると、令和2年の和歌山県の離婚件数は1529件であり、離婚率(人口千人対)は1.67でした。全国の離婚率(人口千人対)が1.57であることからすると、和歌山県の離婚率は、全国平均に比べて高い水準であることがわかります。
現代では、離婚や再婚を選択する夫婦も増加しており、それに伴い家族関係も複雑化してきているのが現状です。
相続が開始した場合においては、相続人となる対象範囲についても離婚や再婚といった事情が大きく影響してきます。そのため、遺産相続において不利益を被らないようにするためには、離婚による相続への影響を正確に理解しておくことが大切です。
本コラムでは、離婚をした場合の相続への影響について、ベリーベスト法律事務所 和歌山オフィスの弁護士が解説します。
1、離婚したら、元配偶者側の相続にかかわれない?
離婚をした場合には、誰が元配偶者の相続人になるのでしょうか。以下では、離婚による相続人の範囲について説明します。
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(1)元配偶者との関係
離婚をすることによって、配偶者との姻族関係は終了することになります。そのため、元配偶者は、他人と同様の関係になりますので、元配偶者には相続権は認められず、相続人にはなりません。
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(2)子どもとの関係
元配偶者との間に子どもがいる場合には、その子どもには、元配偶者の遺産を相続する権利が認められます。民法では、子どもは、第1順位の相続人とされていますので、元配偶者の両親および兄弟姉妹に優先して遺産を相続することができます。
なお、離婚時には子どもの親権者を決めることになりますが、離婚によって親子関係が解消することはありませんので、親権の有無に関わらず相続権は認められます。 -
(3)元配偶者の再婚相手との関係
元配偶者が離婚後に別の方と再婚をした場合には、元配偶者の再婚相手には、相続権が認められます。ただし、この場合の再婚とは、婚姻届を提出した法律上の婚姻のことをいい、事実上の婚姻関係である内縁の配偶者は含まれません。
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(4)元配偶者と再婚相手の間に生まれた子どもとの関係
元配偶者と再婚相手の間に子どもが生まれた場合には、その子どもにも相続権が認められます。前妻(夫)との間の子どもであるか、再婚相手との間の子どもであるかによって、法定相続分に違いは生じませんので、遺産相続の場面では対等に扱われることになります。
2、子どもに認められる遺留分
元配偶者が子どもに対して一切財産を相続させないという内容の遺言書を残していた場合であっても、遺留分を請求することが可能です。
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(1)遺留分とは?
遺留分とは、法律上認められている最低限の遺産の取得割合のことをいいます。遺留分は、相続人の遺産相続に対する期待権を保護するために一定の範囲の相続人に対して認められた権利です。
遺言書によって一切遺産を取得することができない場合でも遺留分については保障されていますので、遺留分を侵害された相続人は、侵害された遺留分に相当する金銭を請求することができます。
なお、遺留分を請求することができる相続人は以下のとおりです。- 配偶者
- 子どもなどの直系卑属(第1順位の法定相続人)
- 親、祖父母などの直系尊属(第2順位の法定相続人。第1順位の相続人がいない場合は相続できる)
そのため、元配偶者の子どもは遺留分を請求することができます。なお、兄弟姉妹は第3順位の相続人(第1、第2順位の相続人がいない場合は相続できる)ですが、遺留分の権利は認められていません。
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(2)遺留分の割合
遺留分の割合は、誰が相続人であるかによって、以下のように異なってきます。
- ① 父母などの直系尊属のみが相続人である場合……法定相続分×3分の1
- ② それ以外の場合……法定相続分×2分の1
これを表で表すと、以下のようになります。
相続する人 法定相続分 遺留分(財産全体に対して) 配偶者のみ すべて 2分の1 子どものみ すべて 2分の1 父母のみ すべて 3分の1 配偶者
子ども1人配偶者:2分の1
子ども:2分の1配偶者:4分の1
子ども:4分の1配偶者
父と母配偶者:3分の2
父と母:3分の1(ひとりあたり6分の1)配偶者:3分の1
父と母:6分の1(ひとりあたり12分の1) -
(3)遺留分侵害額請求の方法
遺留分を侵害された相続人は、遺留分侵害額請求という権利を行使することによって侵害された遺留分を取り戻すことができます。遺留分侵害額請求の方法には、特に決められた方式はありませんが、権利行使をしたことを客観的に明確にするために内容証明郵便を利用した書面による意思表示によって行うのが一般的です。
なお、遺留分侵害額請求には、遺留分を侵害されたことを知ったときから1年または相続開始のときから10年という期間制限がありますので、期限内に権利行使をすることが重要です。
3、元配偶者が亡くなった場合の相続|モデルケース
元配偶者が亡くなった場合には、誰がどのように遺産を取得することになるのでしょうか。以下では、いくつかモデルケースを挙げて具体的に説明します。
なお、すべてのケースにおいて、元配偶者の財産は3000万円の預貯金のみ、とします。
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(1)元配偶者は再婚しているが、再婚相手との間に子どもはいないケース
元配偶者は、前妻(夫)との間に子どもが1人いて、再婚相手との間には、子どもがいなかったというケースを考えてみましょう。
このケースでは、元配偶者の相続人になるのは、前妻(夫)との間の子どもと再婚相手の2人になります。そして、再婚相手の法定相続分は2分の1、子どもの法定相続分は2分の1ですので、それぞれが取得する遺産は、以下のとおりです。再婚相手:1500万円
子ども:1500万円
なお、このケースで、元配偶者が再婚相手にすべての遺産を相続させる旨の遺言を残していた場合には、子どもの遺留分が侵害されることになります。子どもが遺留分侵害額請求をした場合おいて、それぞれが取得する遺産は、以下のとおりです。
再婚相手:2250万円
子ども:750万円 -
(2)元配偶者は再婚して、再婚相手との間に子どもがいるケース
次に、元配偶者は、前妻(夫)との間に子どもが1人いて、再婚相手との間にも、子どもが1人いるというケースを考えます。
このケースでは、元配偶者の相続人になるのは、前妻(夫)との間の子ども、再婚相手、再婚相手との間の子どもの3人になります。
そして、再婚相手の法定相続分は2分の1、子どもの法定相続分は残りの2分の1を等分に分けてそれぞれ4分の1ずつとなりますので、それぞれが取得する遺産は、以下のとおりです。再婚相手:1500万円
前妻(夫)との子ども:750万円
再婚相手との子ども:750万円
もし「再婚相手と再婚相手との子どもにのみ財産を与える」という遺言書があったとしても、前妻(夫)との子どもは遺留分として750万円×2分の1=375万円を請求することが可能です。
なお、再婚相手に連れ子がいた場合において、元配偶者が再婚相手の連れ子と養子縁組をした場合には、連れ子にも相続権が認められます。そして、実子と養子との間で法定相続分には差はありませんので、遺産相続においては同様に扱われることになります。 -
(3)元配偶者は再婚していないが子どもの祖父母は健在
それでは、元配偶者は、前妻(夫)との間に子どもが1人いて、再婚をしていないが元配偶者の両親が健在というケースでは、どうなるでしょうか。
元配偶者の両親も法定相続人になりますが、第2順位の相続人とされていますので、第1順位の相続人である子どもがいる場合には、元配偶者の両親には相続権は認められません。したがって、遺留分を請求する権利もありません。
そのため、このケースでは、前妻(夫)との間の子どもが元配偶者の遺産である3000万円の預貯金をすべて相続することになります。
4、相続人の権利を侵害されたら弁護士へ相談を
相続人の権利を侵害された場合には、以下のような理由から専門家である弁護士に相談をすることをおすすめします。
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(1)正確な相続財産調査が可能
被相続人が生前に遺言書を残しており、それが相続人の遺留分を侵害する内容であった場合には、遺留分を侵害された相続人は、遺留分侵害額請求を行うことができます。しかし、離婚を伴う相続においては、元配偶者の相続財産を正確に把握していることは少なく、どのような財産があるのかまったくわからないということも珍しくありません。遺留分を侵害しているかどうか、遺留分としてどの程度の金銭を請求することができるかについては、正確な相続財産調査をしなければ把握することができません。
相続財産調査については、知識や経験がなければ正確に行うことが難しいため、弁護士にお任せください。弁護士であれば、相続財産調査だけでなく、複雑な遺留分の計算についてもすべて正確に行うことが可能です。 -
(2)相手方との交渉をすべて任せることができる
離婚を伴う相続では、遺留分侵害額請求の相手方になるのは、元配偶者の再婚相手や再婚相手との子どもであることが多く、これまでまったく面識がないということも珍しくありません。遺留分をめぐる争いでは、お互いが少しでも多くの遺産を確保したいという思いからそれぞれの利害が衝突してトラブルになることが多く、面識のない相手との関係ではそれが顕著になることも多いです。そのため、当事者同士で交渉をすすめると、どうしても感情的になってしまいスムーズな話合いが困難となります。
このような場合には、弁護士に交渉を任せることで、スムーズな話合いを実現することができます。弁護士であれば法的根拠に基づいて相手を説得することができますので、感情論を排除した話合いを進めることができます。それによって、当事者同士では話合いで解決することが難しかった事案でも弁護士が入ることによって、話合いでの解決の可能性が高くなります。
5、まとめ
離婚が伴う遺産相続の事案は、一般的な相続の事案に比べて相続人同士の関係が複雑になり、トラブルが生じやすくなります。また、離婚をした元配偶者の相続財産を把握していないことも多いため、相続財産調査に労力を要するケースも珍しくありません。
このような離婚後の相続の事案には、弁護士のサポートが不可欠です。
離婚後の遺産相続についてお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 和歌山オフィスまでお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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