当て逃げされた場合の対処法|罰則と補償について弁護士が解説

2023年10月10日
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当て逃げされた場合の対処法|罰則と補償について弁護士が解説

和歌山県警察が公表する「令和4年中 和歌山県の交通事故概況」によると、令和4年度に和歌山県内で発生した交通事故は1389件でした。交通事故において、ひき逃げの検挙率は高いとされていますが、「当て逃げ」は泣き寝入りしてしまう被害者もいるため、被害の実態がつかみにくいとされています。

しかし、当て逃げもれっきとした犯罪です。駐車場や走行時に「当て逃げ」をされたら、速やかに警察に通報した上で、加害者の特定や損害賠償請求の準備などを進めましょう。

本コラムでは、当て逃げされた場合の対処法や加害者に対する損害賠償請求の方法などを、ベリーベスト法律事務所 和歌山オフィスの弁護士が解説します。

1、当て逃げとは? ひき逃げとの違い・罰則

一般に「当て逃げ」とは、交通事故を起こしても、警察への報告等をせず走り去ってしまう行為で、人身損害(ケガなど)が生じていないものを指します。最初に、ひき逃げとの違いや罰則など基本的な知識を解説します。

  1. (1)当て逃げは物損事故、ひき逃げは人身事故

    「当て逃げ」と同じく、交通事故を起こしたにもかかわらず、警察への報告等を行わずに走り去ってしまう行為として「ひき逃げ」が挙げられます。

    当て逃げとひき逃げは、いずれも法律上の用語ではありませんが、人身損害(ケガなど)が生じているか否かによって区別するのが一般的です。

    物損のみで人身損害が生じていないケース(=物損事故)は当て逃げ、人身損害が生じたケース(=人身事故)はひき逃げと呼ばれます。

  2. (2)当て逃げ行為に対して科される罰則

    ひき逃げに比べて、当て逃げの場合は人身損害が生じていないため、加害者に科される罰則は軽くなっています。具体的には、以下の罰則の対象です。

    罰則の対象行為 条文 法定刑
    警察に対して交通事故の報告を怠る行為(安全運転義務違反) 道路交通法第119条第1項 3か月以下の懲役または5万円以下の罰金
    道路における危険を防止する等必要な措置を怠る行為 道路交通法第117条の5第1項 1年以下の懲役または10万円以下の罰金


    なお、故意に他人の物を損壊する行為については「器物損壊罪」が成立します(刑法第261条)。器物損壊罪の法定刑は「3年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは科料」です。

    ただし、当て逃げは過失によるのが一般的であるため、器物損壊罪が問題となるケースは少ないでしょう。

2、当て逃げされた場合の対処法

当て逃げをされたら、加害者の責任を追及するため、早急に以下の対応を行いましょう。



  1. (1)警察に連絡する

    まずは、当て逃げに遭ったことを警察に連絡しましょう。前述のとおり、当て逃げは罰則の対象行為となり得るため、警察に連絡すれば現場の状況などを調査してくれます。

    加害者を特定するためにも、警察の協力を得るのが得策です。周囲への聞き込みや防犯カメラ映像のチェックなどを通じて、加害者の特定につながる情報を確保してくれる可能性があります。

    また、警察に交通事故の報告をすることで、自動車安全運転センターから交通事故証明書の交付を受けられるようになります。交通事故証明書は、ご自身の加入している自動車保険の保険金を請求する際などに必要です。

    後に加害者を刑事告訴する際にも、事前に警察へ交通事故の報告をしておくとスムーズに対応してもらえるでしょう。

  2. (2)事故状況に関する証拠を確保する

    加害者に対する損害賠償請求に備えて、当て逃げの状況に関する証拠を確保することも大切です。

    車にドライブレコーダーを搭載していれば、その映像が非常に有力な証拠となります。また、駐車場などであれば防犯カメラが設置されているケースが多いので、管理者に映像の開示を依頼しましょう。

    当て逃げによる車両の損傷状況も、損害賠償請求の際に立証すべき事柄です。損傷状況が克明にわかるように、発見時の車両をさまざまな角度から撮影しましょう。

  3. (3)弁護士に相談する

    本格的に当て逃げの損害賠償請求を行う際には、弁護士のアドバイスを受けることをおすすめします。

    弁護士は、当て逃げに関する証拠の確保など、損害賠償請求に必要な対応をサポートします。また、当て逃げの状況や証拠状況などを踏まえた上で、損害賠償請求の成否や金額などの見通しのアドバイスや煩雑な手続きも任せることができます。

    さらに加害者との示談交渉や訴訟手続きについても、弁護士は全面的に代行が可能です。当て逃げの損害賠償請求については、早めに弁護士へ相談することをおすすめします。

3、当て逃げの加害者に対する損害賠償請求

当て逃げの被害を受けたら、加害者に対する損害賠償請求を検討しましょう。

当て逃げの損害賠償請求について、留意すべき以下の3つの事項を解説します。



  1. (1)加害者の特定が必要

    加害者を特定できなければ、損害賠償請求を行うことはできません。

    特に駐車場などにおける当て逃げの場合、被害者はその当時現場にいないケースが大半です。
    この場合は、映像記録が加害者を特定するための最有力の証拠となります。警察の協力も得ながら、ドライブレコーダーや防犯カメラの映像を精査して、加害者の特定に努めましょう。

  2. (2)当て逃げの加害者に請求できる損害賠償の項目

    当て逃げの加害者に対しては、主に以下の項目の損害賠償を請求できます。

    1. ① 修理費・買替費用
      当て逃げによって破損した車の合理的な修理費は、その全額が損害賠償の対象となります。
      ただし、事故当時の車の市場価格よりも修理費の方が高い場合は、買替費用(市場価格)相当額が修理費の上限となる点に注意が必要です。

    2. ② 代車費用
      当て逃げで破損した車が使えなくなり、修理が終わるまで代車を借りた場合は、代車費用が損害賠償の対象となります。

    3. ③ 車の評価損
      事故車となったことで中古車市場における評価額が下がった場合は、その減少分について、当て逃げとの相当因果関係が認められる範囲内で損害賠償の対象となります。

    4. ④ 休車損害
      タクシーなどの営業車が当て逃げに遭い、破損によって稼働不能となった場合には、営業上の逸失利益が損害賠償の対象となります。


    各項目の損害額を計算した上で、加害者に対してもれなく請求しましょう。
    なお、物損事故である当て逃げの場合、慰謝料の請求は認められないのが一般的です。

  3. (3)損害賠償請求の方法

    当て逃げの加害者に対して損害賠償を請求する場合、基本的には示談交渉または訴訟によります。

    1. ① 示談交渉
      加害者と交渉して、損害賠償の金額などを話し合って取り決めます。加害者が任意保険に加入している場合は、任意保険会社と交渉することになります。

    2. ② 訴訟
      裁判所に訴状を提出して、加害者に対して損害賠償を命ずる判決を求めます。被害者は、加害者が当て逃げをしたことや、当て逃げによって生じた損害などを立証しなければなりません。

      訴訟は一般に長期化するケースが多いですが、被害額が60万円以下であれば「少額訴訟」を利用できます。少額訴訟の審理は原則として1回で終了するため、早期に解決を得ることが可能です。
      参考:「少額訴訟」(裁判所)


    示談交渉や損害賠償請求訴訟の対応は、弁護士にご依頼いただければ全面的に代行いたします。弁護士が法的根拠に基づいた主張を行うことで、適正な損害賠償を受けられる可能性が高まります。

    当て逃げの損害賠償請求については、まずは実績のある弁護士へ相談しましょう。

4、当て逃げの加害者が特定できない場合は、自動車保険を要確認

当て逃げ事故の加害者が特定できない場合は、損害賠償請求ができません。しかし、被害者ご自身が自動車保険(車両保険)に加入している場合は、その保障内容によっては保険金を受け取れる可能性があります。

車両保険は、加害者を特定できない事故や単独事故(ガードレールに自ら衝突した場合など)を対象として、車の修理費や買替費用などを補償する保険です。当て逃げの加害者が不明な場合は、車両保険の適用を受けられるかどうかを確認しましょう。

5、まとめ

当て逃げの被害に遭った場合は、加害者を特定した上で損害賠償を請求しましょう。

加害者を特定するに当たっては、ドライブレコーダーや防犯カメラの映像が有力な証拠となります。警察の協力を得ながら、加害者の特定を目指しましょう。また、当て逃げによって損傷した車両の状況を撮影しておくことも重要です。十分な証拠を確保しておけば、損害賠償請求を行う際に役立ちます。

加害者が特定できたら、示談交渉や訴訟を通じて損害賠償を請求しましょう。適正額の損害賠償を受けるためには、法的根拠に基づく主張を行う必要があるので、弁護士への相談をおすすめします。

ベリーベスト法律事務所は、交通事故の損害賠償請求に関する相談を随時受け付けております。損害賠償請求の手続きや見通しにつき、経験豊富な弁護士がわかりやすくアドバイスいたします。また、示談交渉や訴訟の対応についても、弁護士にご依頼いただければ全面的に代行いたします。

当て逃げを含む交通事故の損害賠償請求に当たっては、弁護士のサポートが役立ちます。交通事故の被害に遭い、加害者に対する損害賠償請求をご検討中の方は、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。ご負担を最小限に抑えつつ、十分な損害賠償を受けられるように弁護士が尽力いたします。

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