横断禁止道路で事故に遭った歩行者はどのように救済されるのか

2023年06月27日
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横断禁止道路で事故に遭った歩行者はどのように救済されるのか

和歌山県警察が公表する「令和4年中 和歌山県の交通事故概況」のデータによると、令和4年に和歌山県内で発生した交通事故件数は、1389件でした。そのうち、人と車両による事故は、158件生じています。約10%の確率で人と車両が事故になっていることを考えると、決して少ない件数とはいえません。

つい、横断歩道以外の場所で横断してしまいたい気持ちになったとしても、自分の身を守るためにルールをしっかりと守ることが重要です。

車の通行量が多い道路や複数車線が設けられている道路では、歩行者の安全の観点から、横断禁止の標識が設けられていることがあります。このような横断禁止の道路で事故に遭ってしまった場合には、歩行者の過失はどのようになるのでしょうか。

本コラムは、歩行者横断禁止の道路での事故における歩行者の過失などについて、ベリーベスト法律事務所 和歌山オフィスの弁護士が解説します。

1、交通事故被害者が請求できる慰謝料は何で決まる?

最初に、交通事故の被害者が請求できる慰謝料はどのような事情によって決まるのか、解説していきます。

  1. (1)交通事故被害者が請求できる慰謝料

    慰謝料とは、精神的苦痛に対して支払われるお金です。

    交通事故の被害者は、事故による怪我や後遺症などによって、さまざまな精神的苦痛を被ります。そのため、加害者に対して、以下のような慰謝料を請求することが可能です。

    • 傷害慰謝料(入通院慰謝料)
      傷害慰謝料(入通院慰謝料)とは、交通事故で怪我をしたことにより被った精神的苦痛に対して支払われる慰謝料です。
      傷害慰謝料は、怪我の程度、入院の有無、入通院期間、実入通院日数などに応じて金額が算定されます。
    • 後遺障害慰謝料
      後遺障害慰謝料とは、交通事故で後遺障害が生じたことにより被った精神的苦痛に対して支払われる慰謝料です。
      後遺障害慰謝料は、認定された後遺障害等級(第1級から14級まで)に応じて金額が算定されます。
    • 死亡慰謝料
      死亡慰謝料とは、交通事故で被害者が亡くなったことにより被った精神的苦痛に対して支払われる慰謝料です。
      死亡慰謝料は、遺族が慰謝料を請求していくことになります。
  2. (2)交通事故の慰謝料は過失割合によって相殺される

    交通事故の慰謝料は、怪我の程度、入通院期間・実日数、後遺障害の有無・程度などによって、請求できる慰謝料の種類や金額が決まります。

    このほか、被害者にも事故の発生に関して責任がある場合には、2章で説明する過失割合によって賠償額が相殺されることがあります。過失割合によっては、請求できる慰謝料額も大きく異なってきますので、適正な過失割合の認定を受けることが重要です。

2、過失割合とは?

過失割合とは、どのようなものなのでしょうか。ここからは、過失割合に関する基本事項について説明します。

  1. (1)過失割合の概要

    交通事故の過失割合とは、当該事故における自分の責任(過失)と相手の責任(過失)を割合にして表したものです。一般的には、過失割合の小さい方を「被害者」、過失割合の大きい方を「加害者」と呼びます。

    交通事故の態様は千差万別です。そのため、本来は過失割合も個別具体的な事故状況に応じて決められることになります。

    しかし、交通事故の実務では、過去の裁判例などをもとに類型化された過失割合が存在しますので、それにあてはめる形で交通事故の過失割合が決められます。

  2. (2)過失割合の大きさによって賠償額が大幅に変わる

    交通事故の過失割合は、損害賠償額を算定する際の過失相殺の場面で利用されます。

    過失相殺とは、被害者にも事故の責任があるとき、加害者にすべての損害を負担させるのは不公平であるため、損害の公平な分担を図る観点から、損害額から被害者の過失分を減額することです。

    そのため、交通事故の被害者であっても、過失割合が発生する場合には、満額の損害賠償請求をすることができず、自己の過失割合に応じて減額された賠償額しか請求することができません。

    過失割合が1割変われば、損害額が何十万から何百万円単位で変わることもありますので、どのような過失割合になるかは非常に重要です。

3、横断禁止道路を渡った歩行者の過失は?

歩行者横断禁止の道路を横断中に事故に遭った場合には、歩行者の過失はどの程度になるのかについて、解説します。

  1. (1)歩行者横断禁止の道路とは?

    歩行者横断禁止の道路とは、「歩行者横断禁止」の道路標識等によりその横断が禁止されている道路のことです。

    交通量の多い道路や複数の車線が設けられている道路では、歩行者の横断により事故が発生する可能性が高いため、歩行者横断禁止の道路標識等が設置されていることがあります。
    このような歩行者横断禁止の道路では、歩行者は、近くの横断歩道や横断歩道橋を利用して、道路の横断をしなければなりません。

    それ以外の場所を横断することは「乱横断」と呼ばれ、禁止されている行為です。そのため、歩行者横断禁止の道路で横断歩道などを利用せずに渡っているときに事故に遭った場合には、歩行者の過失が加算されることになります。

  2. (2)歩行者横断禁止の道路を横断中の事故における過失割合

    実際に歩行者横断禁止の道路を渡っている最中に事故に遭ってしまったら、どの程度の過失割合が認定されるのでしょうか。具体的なケースに応じた歩行者の過失割合について、見ていきましょう。

    ● ケース① 信号機の設置されている横断歩道の直近における事故
    信号機の設置されている横断歩道の直近とは、片側2車線(幅員14m)以上の広い幹線道路では、横断歩道の端から外側におおむね10m以内、それ以外の道路ではおおむね5m以内をいいます。

    このような場所を横断中の事故に関しては、歩行者の信号機の色によって過失割合が変わってきます。

    • 歩行者の信号機が青の場合……歩行者:車=5:95
    • 歩行者の信号が黄(青点滅)の場合……歩行者:車=15:85
    • 歩行者の信号が赤の場合……歩行者:車=25:75


    信号機の設置されている横断歩道の直近では、信号機による規制が一定程度及んでいると考えられています。横断歩道により道路を横断すべき規制に違反したことに加えて、歩行者横断禁止の規制違反も加算することは二重評価となりますので、横断禁止の規制があったとしても原則として加算修正はされません。

    ● ケース② 横断歩道の付近における事故
    横断歩道の付近とは、片側2車線(幅員14m)以上の道路で、交通量が多く車が高速で走行している道路では横断歩道の端から外側におおむね40~50m以内、それ以外の道路ではおおむね20~30m以内をいいます。

    このような道路を歩行者が横断中に事故に遭った場合には、基本の過失割合は、以下のようになります。

    • 歩行者:車=30:70


    当該道路が歩行者横断禁止の規制があった場合には、歩行者側の過失を10%加算します。

    ● ケース③ 交差点でも横断歩道の付近でもない場所での事故
    交差点でも横断歩道付近でもない道路を横断中に事故に遭った場合には、基本の過失割合は、以下のようになります。

    • 歩行者:車=20:80


    当該道路が歩行者横断禁止の規制があった場合には、歩行者側の過失を5~10%加算します。

4、歩行中に自動車事故に遭ったときは弁護士に相談を

歩行中に自動車事故に遭ってしまった場合には、弁護士に相談することをおすすめします。

  1. (1)適切な過失割合を判断できる

    歩行者横断禁止の道路を横断中、事故に遭ってしまった場合には、歩行者側にも一定の過失が生じることになります。具体的な過失割合は、道路状況や横断位置などによって異なってきますので、個別具体的な状況に応じて適切な過失割合を主張することが重要です。

    しかし、一般の方では、基本の過失割合がどのような割合になっているのか、過失割合の修正要素にはどのようなものがあるのかを把握していないことから、加害者側の保険会社の主張する過失割合をそのまま受け入れてしまうおそれがあります。

    過失割合の数値によって、最終的な損害額は大きく変わってきますので、まずは弁護士に相談をして、適切な過失割合を判断してもらいましょう。

  2. (2)保険会社との交渉を任せることができる

    事故後のやり取りは、基本的には保険会社の担当者との間で進めていくことになります。
    しかし、事故による怪我の治療のための通院や、日常の仕事・家事などに追われて、保険会社とのやり取りをする時間的・精神的余裕がないこともあるでしょう。

    このような場合には、弁護士に交通事故の対応を依頼することがおすすめです。弁護士は、被害者に代わって保険会社との対応をすることができるため、被害者の負担は大幅に軽減されます。

    また、弁護士が対応することで適切な条件で示談できる可能性が高くなりますので、被害者本人が対応するよりも有利な条件での解決が期待できます

  3. (3)慰謝料を増額できる可能性がある

    慰謝料の算定基準には、自賠責保険基準、任意保険基準、裁判所基準(弁護士基準)の3種類があります。慰謝料額はどの基準を使うかによって大きく変わり、裁判所基準がもっとも高額になります。

    しかし、裁判所基準を使うことができるのは、交通事故の示談交渉を弁護士に依頼した場合に限られる点にご注意ください。

    保険会社が提示する慰謝料額の増額を希望する場合は、弁護士への依頼が必要不可欠です。少しでも有利な条件での慰謝料を希望する方は、まずは、弁護士にご相談ください。

5、まとめ

交通量の多い道路などでは、歩行者横断禁止の規制が設けられていることがあります。

このような道路を横断する場合には、付近の横断歩道を利用しなければなりません。横断歩道以外の場所を横断していて事故に遭ってしまうと、被害者側の過失割合が加算されるおそれがありますので、注意が必要です。

道路横断中の事故に遭ってお困りの方は、ベリーベスト法律事務所 和歌山オフィスまでお気軽にご相談ください。
適切に問題が解決されるまで、真心こめて丁寧にサポートしてまいります。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています