交通事故加害者が「お金がない」と言ったらどうすればいい?
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和歌山県警察が公表している交通事故の統計資料によると、令和4年に和歌山県内で発生した交通事故件数は、1389件でした。交通事故件数は、年々減少傾向にありますが、それでも毎年一定数の事故が発生しています。
交通事故の被害に遭うと、治療費、休業損害、慰謝料などの損害が発生します。このような損害は、事故の責任のある加害者に請求することになりますが、加害者が「お金がない」と言ってきた場合にはどのように対処すればよいのでしょうか。
今回は、交通事故の加害者が「お金がない」と言った場合の対処法について、ベリーベスト法律事務所 和歌山オフィスの弁護士が解説します。
1、交通事故の慰謝料は誰が支払う?
そもそも交通事故の慰謝料は誰が支払うのでしょうか。
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(1)加害者
交通事故の慰謝料は、基本的には、交通事故を起こした責任のある加害者および加入している保険会社が負担することになります。
怪我の程度や後遺障害の有無によっては、慰謝料額が高額になります。もし加害者が保険会社に入っていなければ、個人の資力では「お金がない」などの理由で慰謝料全額の支払いに応じてもらえないこともあります。 -
(2)加害者が加入する任意保険
加害者が任意保険に加入している場合には、交通事故の慰謝料は、加害者が加入する任意保険会社から支払われます。多くの方が任意保険に加入していますので、一般的なケースでは、任意保険会社に慰謝料を請求することになるでしょう。
ただし、任意保険契約の内容によっては、保険金の支払限度額が定められていることがあります。対人賠償が無制限の保険であればよいですが、限度額がある保険である場合には、限度額の範囲内でしか慰謝料を含む賠償金を支払ってもらうことができません。 -
(3)自賠責保険
加害者が任意保険に加入していない場合には、加害者自身にお金がないと満足いく賠償を受けることができません。そのような場合には、自賠責保険から慰謝料の支払いを受けることができます。
自賠責保険は、交通事故の被害者救済を目的とした保険で、対人事故の被害者に対して、一定の金額の範囲内で保険金の支払いが行われます。あくまでも最低限の補償になりますので、自賠責保険からの支払いだけでは、被害者が被ったすべての損害の補填(ほてん)をすることはできません。
2、交通事故被害で請求できるもの
交通事故の被害に遭った場合には、主に以下のような損害の請求をすることができます。
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(1)治療費
交通事故の怪我の治療のために病院や整骨院などにかかった費用は、必要かつ相当な実費全額を請求することができます。
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(2)通院交通費
通院のために公共交通機関(電車、バスなど)を利用した場合には、実費分を請求することができます。また、公共交通機関ではなく、自家用車を利用した場合には、1㎞あたり15円で計算したガソリン代を請求することができます。
なお、通院のためのタクシー代金については、タクシーを利用する必要性および相当性がある場合に限り認められます。具体的には、怪我の程度や部位、被害者の年齢、代わりの交通機関の有無などを照らし合わせて判断されます。 -
(3)休業損害
交通事故による怪我の治療などで仕事を休むと、収入の減少という損害が発生します。収入の減少分については、「休業損害」として請求することができます。
一般的な会社員の場合には、事故前の収入を基準として休業による収入減が休業損害の対象になります。一方、主婦の場合は賃金センサス(政府が公表している「賃金構造基本統計調査」から平均収入をまとめた資料)を参考にして休業損害を計算することができます。
参考:「賃金構造基本統計調査 結果の概要」(厚生労働省) -
(4)慰謝料
交通事故による肉体的・精神的苦痛に対しては、慰謝料を請求することができます。交通事故の慰謝料には、以下の3つの種類があります。
- ① 傷害慰謝料(入通院慰謝料)
傷害慰謝料とは、交通事故による怪我で入院や通院を余儀なくされたことにより生じる精神的苦痛に対して支払われる慰謝料です。傷害慰謝料は、入通院日数や期間に応じて計算するのが一般的です。 - ② 後遺障害慰謝料
治療を継続しても症状が改善せずに後遺障害が生じてしまった場合には、後遺障害慰謝料を請求することができます。後遺傷害慰謝料は、後遺障害等級認定の手続きにより認定された後遺障害等級(1級~14級)に応じて金額が決められます。 - ③ 死亡慰謝料
交通事故により被害者が死亡した場合には、死亡慰謝料を請求することができます。死亡による精神的苦痛を被った被害者は亡くなっていますので、死亡慰謝料は、被害者の相続人である遺族が代わりに請求することになります。
- ① 傷害慰謝料(入通院慰謝料)
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(5)逸失利益
交通事故により後遺障害が生じたり、死亡したりすると、将来得られるはずの収入の減少や喪失という損害が発生します。このような損害については、「逸失利益」として請求することができます。
逸失利益には、以下の2つの種類があります。- ① 後遺障害逸失利益
交通事故により後遺障害が生じた場合は、後遺障害逸失利益を請求することができます。後遺障害逸失利益は、以下のような計算式によって計算します。
基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数 - ② 死亡逸失利益
交通事故により被害者が死亡した場合は、死亡逸失利益を請求することができます。死亡逸失利益は、以下のような計算式によって計算します。
基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数
※ライプニッツ係数……損害金を現時点でまとめて受け取る場合、将来受け取るはずだった利益を現在の価値に調整するための指数
- ① 後遺障害逸失利益
3、慰謝料を支払ってもらえない場合の対処法
加害者が任意保険に加入しておらず、加害者自身も「お金がない」と言って慰謝料を支払ってもらえない場合には、以下のような対処法が考えられます。
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(1)自賠責保険に対する被害者請求
任意保険への加入は任意ですが、自賠責保険は強制加入とされています。そのため、加害者が任意保険に加入していない場合でも自賠責保険には加入しているはずです。
加害者が自賠責保険に加入している場合には、自賠責保険に請求をすることで、人身損害に対する最低限の支払いを受けることが可能です。このような請求を「被害者請求」といいます。
なお、自賠責保険からの支払い限度額は、以下のように定められています。- 傷害関係(治療費、傷害慰謝料、休業損害など)……120万円
- 後遺障害(後遺障害慰謝料、後遺障害逸失利益など)……75万円~4000万円
- 死亡(死亡慰謝料、死亡逸失利益など)……3000万円
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(2)政府保障事業への請求
加害者が自賠責保険にも任意保険にも加入していない場合には、政府保障事業を利用することにより損害のてん補を受けることができます。
政府保障事業とは、ひき逃げ、盗難車による事故、無保険車による事故などにより保険金の支払いを受けられない被害者を救済する制度です。基本的な保障内容については、自賠責保険と同様ですが、健康保険や労災保険などの社会保険から給付されるべき金額は差し引かれるなど異なる部分もありますので注意が必要です。 -
(3)被害者自身の保険会社への保険金請求
被害者が以下のような保険に加入している場合には、被害者自身の保険から慰謝料などの支払いを受けることができます。
- 搭乗者傷害保険
- 人身傷害保険
- 無保険車傷害保険
保険契約の内容によって具体的な補償内容は変わってきますので、詳細については、ご自身が加入する保険会社に確認してみるとよいでしょう。
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(4)加害者への訴訟提起・強制執行
加害者にお金がないからといって、交通事故に関する加害者の責任が免除されるわけではありません。加害者が「お金がない」と言って、慰謝料などの支払いに応じてくれない場合には、裁判所に損害賠償請求訴訟を提起するとよいでしょう。
裁判で勝訴して判決が確定すれば、加害者の財産(給料、預貯金など)を差し押さえて、強制的に未払いの賠償金を回収することができます。加害者が「お金がない」と言っていても、実際には資産を隠し持っていることもありますので、すぐに諦めずに訴訟提起や強制執行の申立てをすることが大切です。
4、交通事故トラブルは弁護士へ
交通事故のトラブルでお困りの方は、弁護士に相談することをおすすめします。
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(1)被害回復の方法をアドバイスしてもらえる
加害者に「お金がない」と言われてもすぐに諦めてはいけません。加害者が任意保険に加入していなかったとしても、自賠責保険、政府保障事業、被害者自身の保険から被害の回復を受けることができる可能性があります。
具体的な状況によって、採るべき手段が変わってきますので、任意保険に加入していない加害者から「お金がない」と言われてしまった場合には、まずは交通事故問題の実績がある弁護士に相談をしてみるとよいでしょう。 -
(2)加害者との交渉を任せることができる
加害者が任意保険に未加入の場合、加害者本人との間で示談交渉を進めていかなければなりません。加害者が誠実に対応してくれればよいですが、「お金がない」などと言って支払いを拒むような場合では、被害者本人だけでは対応が難しいこともあります。
そのような場合には弁護士に依頼するのがおすすめです。弁護士に依頼をすれば弁護士が代わりに加害者と交渉を行うことができますので、被害者自身のストレスは軽減されます。また、弁護士が窓口になり法に基づいた主張をすることで、支払いに応じてもらえる可能性が高くなるでしょう。 -
(3)訴訟や強制執行により被害を回復できる可能性がある
加害者との話し合いでは、「お金がない」と言うばかりで支払いに応じてくれない場合には、最終的に裁判所に訴訟提起をする必要があります。
裁判になれば、被害者の側で加害者の責任や損害を主張立証していかなければなりませんが、弁護士に依頼をすれば、複雑かつ専門的な裁判手続きをすべて任せることができます。裁判に勝訴し、判決が確定すれば、強制執行の手続きにより加害者の財産を差し押さえることができますが、その際の財産調査も弁護士に任せることが可能です。
5、まとめ
加害者が任意保険に加入していない場合、「お金がない」と言って賠償金の支払いに応じてくれないケースもあります。そのような場合には、自賠責保険や政府保障事業、被害者自身の保険から支払いを受けた上で、不足分については、裁判により加害者に請求していくとよいでしょう。
加害者が無保険のケースでは、対応に苦慮すること多いため、弁護士に依頼するのがおすすめです。加害者に「お金がない」と言われてお困りの方は、ベリーベスト法律事務所 和歌山オフィスまでお気軽にご相談ください。
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