損益相殺とは? 受取金で差し引きされるもの・されないもの
- 慰謝料・損害賠償
- 損益相殺
令和4年に和歌山市内で発生した人身事故件数は、628件でした。通常、交通事故により損害が発生した場合には、加害者または加害者の保険会社から賠償金の支払いを受けることができます。
しかし、場合によっては自賠責保険や社会保険などから交通事故に対する金銭の支払いを受けることがあります。このようなケースでは、賠償金の二重取りを防ぐ目的で、加害者側の賠償金を差し引く「損益相殺」が行われます。
今回は、交通事故における損益相殺の概要と損益相殺の対象となる給付金などについて、ベリーベスト法律事務所 和歌山オフィスの弁護士が解説します。
1、損益相殺とは
損益相殺とは、交通事故の被害者が同一の原因によって利益を得た場合に、その利益を損害から控除する制度のことをいいます。簡単にいえば、損益相殺は、損害賠償金の二重取りを防ぐための制度といえるでしょう。
損害賠償制度は、損害の公平な分担を目的としていますので、事故により被害者が賠償金の二重取りをすることがないようにするために、損益相殺による調整が行われます。
たとえば、交通事故で400万円の損害が発生したものの、被害者が加入する保険から100万円の保険金を受け取った場合には、損益相殺により、加害者から受け取ることができる賠償金は「400万円-100万円=300万円」になります。
2、損益相殺によって受取金で差し引きされるもの・されないもの
交通事故を原因として受け取ったお金のすべてが損益相殺の対象になるわけではありません。以下では、損益相殺により差し引きされるもの・されないものについて説明します。
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(1)損益相殺により差し引きされるもの
損益相殺により差し引きされるものとしては、以下のものが挙げられます。
① 自賠責保険金や政府保障事業のてん補金
自賠責保険から受け取った自賠責保険金や政府保障事業のてん補金は、損益相殺の対象になります。
なお、政府保障事業とは、被害者の救済を図るために政府が損害のてん補を行う制度です。加害者が自賠責保険に加入していなかった場合やひき逃げされて加害者が不明な場合などのケースで政府保障事業のてん補金を請求することができます。
② 支給が確定した各種社会保険の給付金
各種社会保険の給付金は、実際の支給額または支給が確定した金額を上限として、損益相殺が行われます。
交通事故による、負傷や障害、死亡した際には、以下のような社会保険から給付金が支払われることがあります。- 労働災害補償保険法(労災保険法)に基づく給付金
- 厚生年金法に基づく遺族厚生年金
- 国民年金法に基づく遺族基礎年金
- 国家公務員(地方公務員)共済組合法に基づく遺族年金
- 介護保険法に基づく給付金
③ 所得補償保険金
所得補償保険金とは、怪我や病気などが原因で働けなくなった際の収入減少分をてん補するために支払われる保険金です。収入の減少の原因が交通事故であった場合には、交通事故の休業損害と二重取りになってしまいますので損益相殺の対象になります。
④ 健康保険法に基づく給付金
交通事故の治療のために健康保険を利用すると、医療費の一部は健康保険法に基づく給付金から補填されます。
しかし交通事故の怪我の治療費は、本来加害者側が補償すべきものです。そのため、健康保険を利用して支払う治療費も損益相殺で調整が必要になります。
⑤ 人身傷害保険金
人身傷害保険金とは、交通事故により怪我をしたり、死亡したりした場合に、被害者が加入する保険会社から支払われる保険金です。人身傷害保険は、自動車保険の特約として定められていることが多いです。
人身傷害保険金は、加害者が本来負担すべき賠償金を被害者の保険会社が支払っていますので損益相殺の対象になります。
⑥ 加害者による弁済
加害者が任意保険に加入している場合でも加害者から直接弁済を受けることがあります。示談の際には、賠償金の二重取りを防ぐために、加害者による弁済があった場合、損益相殺により控除されます。 -
(2)損益相殺により差し引きされないもの
損益相殺により差し引かれないものとしては、以下のものが挙げられます。
① 労働者災害補償保険法による特別支給金
労働者災害補償保険法による特別支給金は、損害のてん補を目的とする給付金とは異なり、社会福祉的観点から支払われるお金になりますので、損益相殺の対象とはなりません。
② 搭乗者傷害保険金
搭乗者傷害保険金とは、車に乗っている人が死傷した場合に支払われる保険金です。搭乗者傷害保険金は、被保険者の損害をてん補する性質のものではなく、加害者への代位規定もないことから損益相殺の対象とはなりません。
③ 生命保険金
生命保険金は、事故を原因として支払われる保険金になります。しかし、被害者が支払った保険料の対価として支払われるものですので、損害のてん補が目的ではないことから損益相殺の対象とはなりません。
④ 雇用保険法による給付
雇用保険法による失業手当などは、損害をてん補する性質のものではありませんので、損益相殺の対象とはなりません。
3、交通事故での損害賠償金を適切に受け取るためにしたいこと
交通事故での損害賠償金を適切に受け取るためには、以下のようなポイントがあります。
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(1)裁判所基準(弁護士基準)による慰謝料の算定
交通事故の慰謝料の算定基準には、以下の3つの基準があります。
- 自賠責保険基準
- 任意保険基準
- 裁判所基準(弁護士基準)(裁判所基準)
この3つの基準の中では、自賠責保険基準がもっとも低い金額になり、弁護士による交渉の際に用いられる裁判所基準(弁護士基準)がもっとも高い金額になります。
そのため、適切な慰謝料の支払いを受けるためには、保険会社から提示された慰謝料額で示談するのではなく、裁判所基準(弁護士基準)で算定した慰謝料額の支払いを求めていくことが大切です。 -
(2)適切な過失割合での交渉
交通事故の態様には、停車中に追突されたなど被害者側の過失がゼロになるものもあれば、交差点での出合い頭衝突のように、被害者側にも過失割合が生じるものなどさまざまなものがあります。
被害者側にも過失割合が生じるような事故態様であったとしても、保険会社からの提示された過失割合をそのまま受け入れず、一度弁護士に相談することをおすすめします。
過失割合には、事故態様から導かれる基本の過失割合のほか、実際の事故状況に応じた修正要素がありますので、事案に応じた修正要素を主張立証することで、提示された過失割合を減らせる可能性もあります。
過失割合が1割変わるだけでも最終的な損害額に大きな差が生じますので、適切な過失割合になるよう交渉していくことが大切です。 -
(3)適切な後遺障害等級の認定
怪我の治療を続けてもこれ以上改善しない状況を「症状固定」といいます。症状固定時点で残存している症状がある場合には、後遺障害等級認定の申請を行うことができます。
後遺障害等級認定を受けることができれば、「後遺障害慰謝料」および「逸失利益」という損害を請求することができます。これらは、交通事故の賠償金の中でも大きな割合を占める項目になりますので、後遺障害等級認定を受けられるかどうかによって、賠償額が大きく変わってきます。
また、認定された後遺障害等級(1級~14級)に応じて、後遺障害慰謝料や逸失利益の金額が変わってきますので、適切な後遺障害等級認定を受けることが重要になります。
4、交通事故の損害賠償請求で弁護士に依頼するメリット
交通事故の損害賠償請求をお考えの方は、弁護士に相談することをおすすめします。
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(1)裁判所基準(弁護士基準)で算定した慰謝料を請求できる
慰謝料の算定方法には、自賠責保険基準、任意保険基準、裁判所基準(弁護士基準)の3種類がありますが、裁判所基準(弁護士基準)を参考にご自身で交渉しても保険会社が応じることはなく、裁判所基準(弁護士基準)を用いて示談交渉を行うことができるのは弁護士に依頼した場合に限られます。
保険会社から提示された慰謝料額は、自賠責保険基準または任意保険基準により算定されたものですので、裁判所基準(弁護士基準)と比較すると大きな差が生じます。適切な慰謝料を請求するためには、弁護士への依頼が不可欠となりますので、少しでも慰謝料額を増額したいという場合には、まずは弁護士にご相談ください。 -
(2)保険会社との交渉を任せることができる
交通事故の損害賠償請求をするにあたっては、保険会社の担当者との示談交渉が必要になります。
しかし、被害者と保険会社の担当者との間には、交渉力や知識の面で大きな格差がありますので、被害者本人での示談交渉では満足いく結果が得られないことが多いです。
また、不慣れな示談交渉を強いられることによる精神的負担も大きいといえます。
弁護士に依頼をすれば、保険会社との交渉をすべて任せることができますので、被害者本人の精神的負担は大幅に軽減されます。また、弁護士であれば交通事故に関する豊富な知識と経験を有していますので、被害者にとって少しでも有利な条件になるよう示談交渉を進めていくことが可能です。
5、まとめ
交通事故を原因として、相手方以外から金銭の給付を受けた場合には、賠償金の二重取りを防ぐ目的で損益相殺が行われることがあります。
損益相殺の対象になるかどうかは、給付された金銭の性質などを踏まえて判断する必要がありますので、まずは弁護士に相談することをおすすめします。弁護士であれば、給付された金銭の性質などを見極めた上で、損益相殺をすべきかどうかを正確に判断することができます。
不必要な損益相殺により賠償金が減額される事態を防ぐためにも、まずは、ベリーベスト法律事務所 和歌山オフィスまでご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています